4章の5
「ここって普通の病院だったの? 変な組織のアジトか何かと思ってたけど」
「なっ……!」
思わず吃驚が漏れ出た。
変な組織って……セルのことか?
千景はセルを知っている?
――という事は。
「……千景も変異種なのか」
その問いを受けるやいなや、千景は食いつくように問い返した。
「沖田くんもなの!? じゃあ、あの〝一之瀬〟って奴にそそのかされた!?」
「い、一之瀬?」
耳慣れない名を繰り返した。
彼女は憤然とした表情で頷いた。
「私の突然変異は危険だけど使えるから、オルタの仲間に入れって言ってきた奴! 入らないと死刑とか、ふざけないでよ!」
ここにはいない人物に向かって憤りを発する。
「オルタ? そいつはオルタだって名乗ったのか?」
「そう。社会の安寧を守るとか言ってたよ。変異種はオルタの仲間にならないならば殺すって、そんなこと言っておきながら何が安寧よ」
オルタでないなら敵という、絶対正義の理論。
その人物の主張は確かに珠希たちと被っていた。
オルタには、未だ晴道が知り得ない人物が名を連ねているようだ。一之瀬と言う人物もその一人に違いない。
「突っぱねてやったよ。そうしたら今度は後ろから銃を突きつけられて……逃げようと思って突然変異を発現させたんだけど、やりすぎで自分も倒れちゃって、気がついたらこの病院だったの」
千景は語るうち声を沈ませ、自分を諌めるように唇を曲げた。
彼女は左手首をさすった。見ると、そこには包帯が巻かれていた。
傷を負ってしまったのか、と晴道は解釈しつつ、
「じゃあ、セルに賛同したってわけじゃないんだな」
「セル? 何それ。ここってオルタのアジトじゃないの?」
どうやら彼女は大きく勘違いしていたようだ。セルの名を聞いたのも初耳らしい、目を丸くして訊き返す。
晴道はセルについて、ざっと説明した。
千景はますます目を丸くし、そして聞き終えた後にはバツの悪そうに顔を逸らすと、
「うわ……勘違いしてた。てっきりオルタに拉致されたと思って、あの高柳って人の話を聞く前に、ここ爆発させちゃった」
やっちゃった、と千景は舌を出した。
反して晴道は衝撃を受けた。
「えっ……じゃあ、第一病棟を爆破したのは……」
「うん。私が犯人。ちょうど輸血用の血がそばにあったし……とっさに。だから上手く制御が利かなくって、自分も吹っ飛ばされて気を失ってたんだけどね」
千景はそう白状した。
晴道は唖然と彼女を見た。
平気そうな顔で舌を出している彼女が、病棟一つ吹き飛ばした犯人だったのだ。
おまけにどれだけ猪突猛進な性格だ。やり過ぎで二度も失神するなんて。
――いや、今はどうでもいい。
晴道は身を乗り出した。
「千景の突然変異は何なんだ?」
病棟を半壊させる力を持つ形質。珠希たちの変異とも、全く方向性が違う。
――そして一之瀬という人物が言うに、彼女の突然変異は危険である。
千景はさらりと答えた。
「血球振動。名前を教えたのは一之瀬だけどね」
「血球振動?」
怪訝に繰り返す。
「どんな変異かよくわからないんだけど……」
すると千景は
「うん、教えるよ。私も沖田くんの突然変異を教えてほしいし。でもその前に」
いきなり彼女は背を返した。
「暗くなる前にやっておかないといけないことがあるの。沖田くんもついてきて」
と、軽く首をめぐらせて促した。
置いていかれそうになっていた晴道は、慌ててその背に続いた。
「見つけたんだ。やっぱり病院だね」
千景の一言で、晴道は自分も捜し物をしていたのを思い出した。
いや……今はどうでもいい。




