4章の3
「はぁぁ……ホント、散々だな」
長々とため息を吐き出し、自分の境遇全てに愚痴をこぼした。
発現抑制、なんて突然変異を持ってしまったが故の苦境だ。
偶然にも一度、発現抑制によって自分の命を守ることができた晴道だったが、今はただ、自身の遺伝子に感じるのは疎ましさだけだった。
制御できない突然変異など、価値はカケラも無い。
それに制御が効いた所で、発現抑制単体では何の意味も無いのだ。別個体の突然変異を抑制して初めて、この形質は効力を示す。
「俺は何なんだ。……こんな遺伝子持って、使えもしないのに」
当てもなくぼやく。
何で俺は、こんな遺伝子を持って生まれてきたんだろう。
何の役に立つために、俺のDNAは発現抑制を記したんだろう。
知らない誰かに答えを乞うても仕方がなかった。
その時だった。
「提供者」
一つの答えが背中に返された。
「!」
「提供者を捕まえなきゃ」
晴道が振り返ったその瞬間、瓦礫の影から一人の少女が跳びかかってきた。
「ぐっ!」
背後は運良く瓦礫の迫間だった。むき出しの地面にしたたかに背を打ち付け、呻き声を上げた。
跳びかかった勢いのまま、少女は晴道の上にのしかかった。小学生くらいの見た目だった。
「……リコンビナントか……っ!」
にこにこ笑いながら、少女は抑揚の無い言葉を吐き出した。
「提供者を捕まえたよ。創造者、創造者、創造者。捕まえたよ。提供者を捕まえたよ」
語彙の少なすぎる文章を止めどなく繰り返す。
「くそっ、離せ!」
晴道は少女を振り払おうとした。
しかし少女の腕力は、信じられないほどに強かった。パジャマの袖からのぞく腕はこんなに華奢だというのに、高校生の男をいとも簡単に押さえつけている。
晴道は身をよじり、束縛から必死に逃れようともがいた。
「離せっ! おいっ!」
「創造者、創造者。提供者を捕まえたよ。創造者、提供者を捕まえたよ」
幼い少女は、がくがく体を揺さぶられようが、全く意に介さず呟き続けた。
創造者、創造者、提供者を捕まえたよ。創造者、創造者、提供者を捕まえたよ。
壊れた人形のように、にこにこ笑いながら同じ言葉を反復し続ける少女。拘束と言う命令しか受けていないのか、危害を加える行為には出ない。
それでも場違いな笑顔と幻聴のように聞こえ続ける言葉が、晴道の思考をひたすらかき乱した。
「やめろ! お願いだから黙ってくれ!」
晴道は叫ぶ、が、目前の笑顔はぴくりとも応えない。
「創造者」
「黙れ」
「提供者を」
「黙れ」
「つかまえ」
「黙れぇええええっ!」
ひゅん、と、空気が鳴った。
次の瞬間、晴道の目前の空間が炸裂した。




