3章の14
断罪銃の銃口が、晴道をまっすぐに見つめた。
「二呼吸」
珠希は静かに紡ぐ。
「ロックオンから発砲まで、二呼吸分の時間を自分自身に与えるようにしています。障害銃とは違い、自分の決意を引き金を引く力とできるまで、どんな状況でも二呼吸分必要なのです」
その間に、珠希は何を思うのだろうか。
「私は自分が、更紗さんやミラさんが言ってくれるように大層な人間であるとは思っていません。しかし、自分が背負っている役割の真意は誰よりも正確に認識しているつもりです」
晴道は無言で言葉を受けていた。
役割。
珠希は己の役割を幾度となく口にした。
『殺します』
今そこにいる珠希は、それを言わずに口をつぐんだ。
一呼吸。
どくん
晴道の心臓が跳ねる。
殺される。断罪銃の銃口は俺を見つめている。
珠希の銃弾を否定した俺は今、紛れもない罪人だ。
意見を覆せ。そうすれば珠希は銃を下ろす。
俺は助かる。
そして、断罪は肯定される。
「……っ!」
晴道は背を返した。そのまま、全力でその場から駆け出した。
逃げるなんて卑怯以外の何でもないかもしれない。
でも、保身のために断罪を肯定することはできなかった。
珠希の瞳に否定を重ねることもできなかった。
そしていつ、銃声が鳴って、背に衝撃が走って、倒れて、命を失って、体の全てが消滅するかもわからなかった。
しかし晴道は走った。
目指す場所など無い。ただ、あの場所から遠ざかりたかった。
銃口と、黒服の少女の瞳から逃れたかった。
だから、晴道は走った。
走った。
繰り出す二本の足が、己の運命を知らされた場所へ一直線に向かっているとも知らないまま、走り続けた。
海風だけが、罪人と化した少年の背を優しく押していた。




