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3章の12

「たっ、珠希!」

「どうしました、晴道」

 珠希は何でもないような顔でこちらを振り返った。

 金色の銃が、太陽の光をきらりと反射した。

 珠希の両手の中、包み込まれるように抱かれた断罪銃パニッシュ。晴道はその存在を今の今まで忘れ、そして珠希の肩書を完璧に失念していた。

 断罪執行者。目前の彼女は、罪人に自己死アポトーシスという断罪を下すためにここにいるのだ。

「……殺すのか?」

 晴道はその短い問いを絞り出した。

「ええ。それが私の役割ですから」

 さらっ、と珠希は答える。そしてその言葉の通り、早くも銃を擡げようとした。

 晴道はとっさに珠希の前へと躍り出た。

 訝しげな視線を向けてきた珠希へ、

「いいじゃないか! もう気絶してるんだし、殺す理由もないだろ!?」

 そうまくし立て、断罪銃を奪おうと手を伸ばした。

 しかし珠希はその手をぱしんと跳ねのけた。

「理由? 今更何を言うのですか。教えたでしょう、私の役割はこの断罪ただ一つです」

「でも……っ。それなら何で、わざと生かすような風に戦ったんだよ」

「それを問われる相手は私たちだな」

 はっ、と晴道は珠希の瞳から視線を上げた。

 珠希の向こう側、更紗とミラが真顔でこちらを窺っていた。

「何で殺さねぇのかって? 決まってんだろ。オレ様たちは資格がねぇんだよ」

 ミラは頭の後ろで手を組み、どこか馬鹿にするような目で言った。

「リコンビナントは範囲外だけど、こいつらみたいな生身の人間の場合、殺す資格を持ってんのは珠希だけだ」

 更紗がミラの言葉を首肯し、続ける。

「変異種に対する死刑・断罪を下すことができるのは、この八ツ坂珠希だけだ。私やミラの場合、変異種を手に掛けることも、断罪銃を代行使用することもオルタの規則違反になる」

 晴道は再度、珠希の両手に抱かれた金色の銃を見つめた。

 断罪銃――

 口をつぐんだ晴道へ、珠希は諭すように、しかし若干呆れたように言った。

「守るべきでないとみなした変異種には、断罪銃による死を――遺伝子レベルの死を与える。言いましたよね? セルに加担する変異種は社会的脅威でしかありません。死体となっても然りです」

 立ち尽くす晴道を避け、珠希は前進した。かつかつと、黒いパンプスが規則的な靴音を立てる。

 そして地面に倒れるセルの二人の前でぴたりと立ち止まった。

 断罪の準備を完了した銃が、銃口と言う目で標的を睨み据える。それと視線を平行させる珠希も、銃と同様、無機質な表情で唇を結ぶ。

 瞳に溢れる意思の光だけが、無言でいる彼女の意思を知らしめる。

 断罪銃の引き金を引く――その行為によって、罪人の罪を断つ。存在自体が罪である上に、更なる罪を辿ってしまった変異種たちを、遺伝子の単位で消滅させることで。

 晴道は黒服の少女の背を見つめた。

 社会にとって最高の理由で、八ツ坂珠希は人を殺す。

「遺伝情報レベルで消え去りなさい」

 死刑宣告を終えると同時、珠希は断罪銃の引き金を引いた。

 銃声が、夏の空気を破く。

 障害銃トキシスとは比べ物にならないほどに重たい爆発音。晴道が初めて聞いた銃声と同じ音だった。

「…………っ」

 掴んだ珠希の腕が震えるのを、晴道は自分の激しい鼓動の中、感じた。

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