3章の11
「!」
衝突時に一度バウンド、残った勢いでそのまま地面すれすれを吹っ飛んでいく。まるで子供の体が投げられたかのように、しかし大人の体が。
そう、それはミラでは無かった。
吹っ飛ぶ体が、どがっと衝突したのは、地面に倒れ伏した高柳の体だった。そこでようやく停止する。
晴道たちに囲まれ、その姿を露わにしたのは香田だった。
仰向けに倒れた彼女は、白目を向いて失神していた。
そして脅威の瞬発力〝俊足〟を放つ両脚は、そのどちらもがあらぬ方向にへし曲がっていた。香田の外傷は見る限り、その二か所だけだ。
とんっ、と軽快な靴音。
振り向くと、銀灰色の長髪がすぐそばでふわりと揺れた。
超速域より舞い戻ったミラ。現れるなり地面にぺっと唾を吐く。薄く血が混じっていた。
頬に殴られたような跡が一発、シャツは引きつれ、腕の部分には血をこすった跡がある。腹には蹴られた跡が窺えた。
しかしミラは、平然とした顔でこちらに歩み寄った。
ぴたっ、と倒れた香田の前で立ち止まると、
「バーカ。何が一点集中だよ。弱点さらしてんのと一緒じゃねぇか」
悪態をつき、少しの間、自分が昏倒させた相手の姿を見降ろしていた。
ふふんと満足げにほくそ笑む。
「終わったぜ」
「見ればわかる。お前にしては時間が掛ったな」
「まーな。ふざけたセリフをかましやがるだけはあったぜ」
ミラはくるんと振り返り、珠希を仰いだ。
「おまけに命令もあるしな、オレ様たちには」
「ええ。ごくろうさまです」
珠希は初めて微笑みを見せる。
それを見ると、ミラはますます図に乗った風に、
「ま、オレ様にかかりゃ、こんな女の相手なんざ楽勝だぜ? 日ごろの訓練の成果だな!」
フハハ、と高笑いする。が、
「はがっ!」
「このお調子者が。少しは大人しくしていろ!」
更紗に頭をがしっと掴まれ、口を全開にしたまま固まる。
ミラが大人しくなったのを認めると、更紗は珠希へ言った。
「それでは、後は頼むぞ、珠希」
珠希は首肯を返した。
「頼む?」
晴道は怪訝に繰り返した。
高柳と香田共々、意識を失って倒れている。これ以上何をしようと言うのだ。
それも、八ツ坂珠希の手で。
「今回、私はお二人と比べて何の役にも立てませんでしたね」
「珠希はこっちが本業だろ? それまでは捜査官のオレ様に任せときゃいいんだぜ。おまけの更紗にもな!」
珠希は観念したように、微笑混じりの嘆息を返した。
そして前へ向き直ると、一歩前進した。
「それでは――」
右手をブレザーの合わせ目に入れる。
そこから引き抜かれた物を視認すると同時、晴道は狼狽に突き落とされた。




