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3章の9

 再び戦闘が始まる。

 更紗とミラの負傷、晴道と珠希の突然変異の無力、という事実を新たに書き加えて。

「っ……」

 珠希が、食いしばった歯の間から呻きを漏らした。

 晴道の視界に、よろりと立ち上がる人影が入り込んだ。

「珠希」

 更紗だ。

 珠希はその場に立ったまま、視線だけをこちらに向けた。

「こうなったら弾数が勝負だ。奴――高柳を撃ちまくれ。いいか、撹乱射撃だからと言ってわざと外したりはするなよ」

 声をひそめるでもなく指示を下す更紗。高柳に聞かれていても、おかしくも何ともない。

 晴道の覚えた不安と同様、珠希も困惑を露わにする。

 しかしそれも一瞬だった。

「わかりました。戦えないあなたの分まで、私が障害銃トキシスの引き金を引きます」

 きっと前を見据えると、珠希はその言葉通り、高柳に向かって連続発砲をかました。

 ハンドガンの限界とも思える頻発射撃。発砲直後、反動で跳ね上がった銃身を微修正するわずかな間だけ銃声が止む。

 それにも関わらず、銃口の先に立つ男は傾倒のそぶりも見せない。

「あの男もセル相応の訓練を積んでいるということか」

 呟きつつ、更紗が隣に来た。

「更紗……どういうつもりなんだよ」

 晴道が見やると、更紗は白衣のポケットから取り出した三角巾を左腕に縛りつけていた。

 きゅっ、と布の擦れる音で、応急処置が締めくくられる。

 深紅の染みが隠されても、負傷した更紗の姿は有無を言わさず晴道を罪悪感に落としめた。

「せめて俺が何か出来たら」

「まぁ、それが一番なのは確かだ。しかし今回はもう何もしなくていい。むしろするな。高柳に発砲されてはかなわんからな」

 ずばっと言われ、晴道の胸に刃がぐさりと刺さる。

 更紗はそんな晴道を差し置いて、

「しかし、私が『戦えない』だと……? 珠希も本気で言ったのか?」

 指示の通り銃を撃ち続ける少女の背を、不服そうに見つめながら呟いた。

 そして、

「いいか、お前は何もするな。この苦境を見たくないのならば、珠希の背にでも隠れていればいい。大人しくしていろよ」

 この場における晴道の存在を完全否定する言葉を発し、そして更に、硬直する晴道を無理矢理珠希の背後へと押しやった。

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