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3章の8

 彼女の発現意思を受けた障害銃トキシスが銃声の応答を返す。しかし高柳はまたも、いとも簡単に細胞傷害物質の銃弾をかわしてみせた。

 いつの間にか、晴道の発現抑制サイレンスは効力を無くしていた。

 ダメだ。全然制御できない。

 晴道は奥歯をきしませた。発動した発現抑制は、晴道の思惑を越えてこの場にいる全員の突然変異発現を抑制してしまった。だから珠希やミラの攻撃も停止してしまったのだ。

 にわか仕込みの発現抑制では、強度も範囲も継続時間も制御できたものではなかった。

 そして、そのとばっちりで更紗は狙撃されてしまった。

 晴道は視線だけで地面を窺った。そこには、額に汗を浮かばせながら左腕を押さえ、歯を食いしばる更紗がいた。

 ミラが蒼白な顔で縋り寄る。

「更紗! 大丈夫かよ!」

「耳元で喚くな……かすっただけだ」

 ふっと更紗は首を擡げた。

 目が合い、晴道は身じろぐ。彼女をそうさせてしまったのは自分なのだ。

 しかし更紗は、緩い苦笑を向けてきただけだった。

「無茶を言った私も悪い。全てを自分のせいにするな」

 労いだった。

 しかし晴道は、素直に頷くことができなかった。

 肯定も否定もしないまま、晴道は切実に治癒を乞おうとした。

「俺の時みたいに更紗の変異で……」

「いや、無理だ」

 すぱりと否定が返ってくる。

細胞時間加速フォワードセルサイクル外型形質エキソタイプ。つまり非自己細胞にしか効果を表さない。自分の怪我を治させることは不可能なんだ」

「……そんな」

「大丈夫だと言っただろう。それよりもミラ、お前の怪我を治させておく」

 更紗は気丈に命じると、不似合いにもうろたえているミラの腕を掴む。

「む、無理すんなって!」

「お前の方こそ、何発か食らっておきながら平気な顔をするな」

 図星、とばかりにミラは口ごもる。

 その時、再び銃声が聞こえた。はっと晴道が顔を上げると、珠希が敵へ銃弾を放った直後だった。しかし銃口の先の高柳は、傾倒の気配さえも窺わせなかった。

 男は余裕の仕草で、自分が撃った更紗を見やり、あざ笑った。

「回復術は確かにやっかいだが……この場では何の足しにもならんな」

 そしてその目は次に、晴道を向いた。

「頼みの綱の発現抑制も、実戦には不向きのようだな。まったく、久澄がその【沖田晴道】に執着する理由がわからん」

 唇を歪め、この場にいない人物をけなす。

 ざっ、と隣に警備服が舞い降りる。そして高柳を睨みつけた。

「何だ。お前は割合手こずっているようだな」

「的が小さいからよ。あなたこそ、随分のんびりやってるみたいじゃない」

 香田はきつい口調で責める。ミラと戦っていた彼女もまた、高柳と同様、外傷を負った気配は無い。

「あくまで粛々と戦うのが俺の好みでな。常に騒々しいお前とは違って」

「はっ、あなたは事務室で領収書を発行してるのがお似合いよ」

 と、

「だからオレ様は大丈夫だって言ってんだろ! もう行くぜ!」

 粗暴な喚きが響く。

 晴道が振り返ると、声の主の姿はすでに消えていた。残された更紗が渋い顔で呻いている。

「あの馬鹿娘……自分の容体も少しは鑑みろ」

 ミラは更紗の治療を振り切って戦闘に舞い戻ったようだ。

 それにセルの二人も反応する。

「わきまえん奴が来るぞ」

「わかってるわよ」

 香田は吐き捨てると、その姿をミラと同じ超速域へとかき消した。

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