3章の7
「高柳に向けて、発現抑制を発現させてみろ」
「えっ」
いきなり言われたことを、晴道はすぐには理解できなかった。
発現抑制。それは晴道自身の持つ突然変異。
「何だ……その反応は」
呆れた目で振り返った更紗。
「一度は珠希の細胞傷害を抑制しただろうが。今回もそれをやればいいだけだ」
「いや、そうだけど……やり方がわからないんだ」
最初の発現をどうやって導けたのか、晴道は全く覚えていない。命の危機を感じた体が反射的にやってのけた感じだった。
更紗は手のかかる生徒でも扱っているように、軽く嘆息した。
「ただ願え。自分の細胞に、命じるが如く願いを告げろ」
願いを。
「願いって、『抑制しろ!』とかでいいのか?」
「そこは好きにしろ。言葉にしなくても構わないぞ」
そう言うと、更紗は初めて晴道の前から身をずらした。
ずっと据えられていた白衣の護壁が外され、晴道はついに戦場へと身を置いた。
他人の突然変異発現を抑制する、己の変異、発現抑制。
これがあれば、変異種同士の戦闘の際、確実に優位に立てる。端無くも久澄が【沖田晴道】という変異種に目をつけた理由だった。
晴道は見よう見まねながらも、自分の内側に向かって発した。
突然変異を止めろ!
瞬間、
「!」
この場にいた晴道以外の人間全てが、吃驚した。
「障害銃っ!」
動揺し叫ぶ珠希。ガチガチと引き金を引くが、銃は反応しない。
そして彼女の側方にべしゃりと身を伏した人影が一つ。
「ってぇ……おいっ! いきなり何だよ!」
起き上がるやいなや、こちらに非難を吹っ掛けたのはミラだ。
「いきなり体が動かなくなったじゃねぇか!」
「えっ!?」
「馬鹿者が! 的を絞れ!」
更紗が罵倒する。
そしてそれを囃し立てるが如く、
「っ!」
一発の銃声が響くと同時、更紗の顔が吃驚と苦痛に歪んだ。
「更紗ぁ!?」
ミラの絶叫。
更紗は後ろから殴られたように、体を前のめりに大きくよろけさせた。
がくりと両ひざをつき、地面に跪く。
うつむいた顔から呻きが漏れる。白衣の左腕に、深紅の染みが滲みつつあった。
それを右手で強く押さえつつ、更紗は振り返った。
埠頭の先でうすら笑いを浮かべるのは、高柳。彼の手には一丁の銃が握られていた。
銃口からは細く煙が上っていた。
「白衣はどうも目障りだな。久澄を思い出させて仕方がない」
「っ……あれほど銃を蔑んでおいて、あなたは」
珠希が悔しげに絞り、一歩躍り出る。
「とんだペテン師ですね!」
珠希は障害銃の引き金を引いた。




