3章の6
断続的に響く銃声。銃口を向けられているのが自分で無いと知っていても、晴道は生きた心地がしなかった。
「何で当たらないんだよ……」
高柳は棒立ちのまま。射撃の経験の無い晴道でも、動かない的への銃撃がさほど困難でないことは想像できる。
おまけに珠希は、たった一丁のハンドガンで多数のリコンビナントを殲滅させた実力者。彼女は銃撃の玄人なのだ。
しかし、たった一つの的を射とめられない事実もまた、すぐ目前にあった。
「動くリコンビナントには当てられたのに……もしかして当たっても効いてないとか……」
「晴道、お前は奴が微動だにしていないように見えるのか?」
えっ、と晴道は更紗を窺った。
更紗はこちらを見ないまま続けた。
「奴は確実に反応している。香田のように自ら動いて照準を散らすのではなく、撃たせた銃弾を最小限の動作でかわしているんだ」
「……」
晴道は珠希を思考から排除し、高柳の動きだけに集中した。
銃声。
だが〝それよりも早く〟、彼の体は動きを見せていた。
「!」
ほんのわずかだけ、体幹を揺らがす。そして銃声が響いた直後には、再び元の体勢に戻っている。
まるで銃弾が体を素通りしたかのような光景。彼の回避動作に無駄なモーションは一カケラも無い。
「派手に位置を変えないことで、銃弾の発射点を維持させたままにする。その状態で発砲のタイミングを見極め、それに合わせて銃弾をやりすごす。奴のやり方はこれで間違いない」
更紗は小さく嘆息した。
「珠希は気づいていないのか。ゼロ距離射撃でもしない限り、障害銃は通用しないぞ」
「でっでも、更紗」
晴道は「ん?」と巡らされた更紗の顔に、切迫の問いを投げた。
「あいつは銃声が鳴る前に反応してるぜ」
「当たり前だ。引き金が引かれてから反応していては間に合わないだろう」
「そうじゃなくって、何で高柳には珠希の発砲のタイミングがわかるんだよ」
更紗は不思議な顔つきになった。不敵な笑みと言うものだろうか。
「突然変異だ。高柳というのか、奴は突然変異を発現させ、珠希の発砲を見極めている」
何もかも解析済み、というような、自信の滲んだ言葉だった。
この科学捜査員は一体いつ、そして何を掴んだのだ。
「目だ。見ただけではわからないだろうが、香田の発した言葉から予測できる」
「香田の?」
問い返しかけ、晴道は思い当った。目がいいだけで久澄のどうこう、というくだりのセリフだ。
「ライブラリにも登録済み、〝視覚解析〟だ。ルナを捉える眼と言っていいな。奴は珠希の細胞傷害の発現を射撃の初動としてキャッチし、その段階で回避動作に入っている」
「だから、珠希が撃とうと思った時点で避けに入れるってことか」
首肯する更紗。
それなら、珠希に勝ち目はないじゃないか。
ゼロ距離射撃、と更紗は言ったが、そこまで近づく間に高柳が行動に出ないとは考えられない。彼もセルの構成員だ。武器の一つも持っているだろう。
接近戦専門のミラも、香田との戦闘に手いっぱいになっている。時折聞こえてくる鈍い殴打音や、視界の端に一瞬映る彼女らの姿から、ヤワな戦闘ではないことが窺える。
悄然とした気分で、晴道は立ち尽くす。
と、
「晴道」
唐突な更紗の呼びかけに、びくっと身がすくんだ。




