3章の3
「オルタが送りつけたのはたったの三人か。我々もなめられたものだな」
海を背に立つ人物が発した。
長身の男だ。かっちりとしたスーツに身を包み、腕組みをしてこちらを睨み据えている。神経質そうな顔は三十歳くらいの年齢を思わせる。
「一人は医者……科学捜査担当か? 残りは小僧と小娘。戦力外だな。久澄も随分と怖気づいたものだ」
嘲笑うように、男は唇の片端を上げる。小僧と言ったのは恐らくミラのことだろう。
「一概にそうとは言えないでしょう。全員変異種ならば、室長の言った通り甘く見る相手ではないはずよ」
男が、気丈な口調で反論した隣の人物――警備服姿の若い女性を睨む。
彼女も割り合い身長が高い。ベリーショートのヘアスタイルも、活動的な印象を与える。
「偉そうな口を挟むな、香田。それに今更臆病風を吹かせるのならば、さっさと島を離れればよかっただろうが」
「咲浜の警備を任された私が、例え室長の指令とは言え侵入者を放置して逃げるわけにはいかないわ」
香田と呼ばれた女性は、男の方を見ないまま反論を続ける。
「室長は総員退去の指令を送達したのよ。あなたこそ、どうしてここに残っているの」
はっ、と男は不機嫌そうに息を吐く。
「久澄の独断に従うつもりは毛頭ない。それに本部の人事とはいえ、あの狂った若造の下につかされたこと自体反吐が出る」
「室長は高尚な科学者よ。偏見まみれの言葉は止めてちょうだい」
「リコンビナント開発責任者だというだけで久澄を持ち上げるお前も馬鹿な女だ」
男は随分と自分本位な物言いだ。カチンと来たのか、香田は男を睨みつける。
連れだって現れておきながら、険悪な間柄を見せつけてくる二人の人物。
「……セルの構成員だな。女の方は警備員、男は……何だ? 事務員か?」
更紗が首を捻る。
目を凝らして見ると、男のスーツの胸ポケットには〝会計係 高柳〟と書かれたIDカードがついていた。
「二人、と言うことは、彼らが咲浜医療センター常駐の変異種ですね」
すっと人影が歩み出る。
珠希とミラだ。
「戦力外だって? 言ってくれんじゃねぇか」
ボキボキと指の関節を鳴らし、戦意を明示するは、ミラ。
「久澄調を逃してしまったとは言え、残りの任務はここで果たさせてもらいます」
ブレザーの内ポケットに手を入れる珠希も、己の意思を静かに告げる。
セルの二人は、相変わらず口論を繰り返している。
「何ですって? 〝あの子〟を説得できずに病棟まで破壊させられたくせに。室長ならそんなヘマなんてしないはずよ」
「あの小娘が粗忽者だっただけだ。お前こそ、まんまとオルタの侵入を許しただろうが。それでもセルの構成員か? 久澄に付け入るためにどんな手を使ったんだか。分かったものではないな」
「なっ! ……ちょっと目がいいだけで室長の補佐につけたあなたには言われたくないわ!」
二人の会話など意にも介さず、珠希は一歩躍り出た。
両手で包んだ金色の銃を擡げ、僅かな時間、銃口を静置する。
そして、
「遺伝情報レベルで消え去りなさい」
珠希はその言葉を、どちらの罪人へと放ったのか。
それを教えたのは、断罪の結果ではなかった。
銃声が響こうとした刹那、香田の姿が消えた。
「――は?」
「銃なんて武器は、愚かね」
すぐ近くで嘆息が聞こえた、直後。
殴りつける音と共に、珠希の体が宙を跳ねた




