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2章の7

「何せお前の人生が掛っているからな、沖田晴道。おまけに、突然変異について知ったのもつい本日。決めあぐねるのも当然だ」

「更紗さん! 逡巡を誘発するようなことは……」

 慌てて止めようとした珠希を手で制し、更紗は続けた。

「私とてオルタだ。セルの所業は悪だという認識で言っている。おまけに、この断罪執行者・八ツ坂珠希の銃撃を目の当たりにした者が、みすみす悪を取るなどという愚かしい真似をするとは思えないしな」

 にやり、と純粋さを欠いた笑みで晴道を窺う。

「そうだぜ晴道、男らしく覚悟を決めろっての!」

 ミラも人差し指を突きつけてなじってくる。

 見透かすような更紗の言葉は、ほとんど晴道の心中を代弁していた。

「要は……俺はオルタにつかなかったら殺されるってことだろ」

 諦めたように呟く晴道。

 それに、更紗は困ったような顔で返した。

「そんな風に悲観的に捉えるな。私たち変異種が自分の異質さを活かせる場は、今の所このオルタだけだ」

「意外とウジウジ考える奴なんだな、お前」

 ミラはケラケラっと笑うと、上目づかいに珠希を見やった。

「珠希が障害銃ぶっ放したくなるのも当然だぜ」

「私は別に……私情で撃ったわけではありません。不適切な発言があったためです」

 ふいっ、と首を逸らした珠希。しかしその動作は、どう見ても言いわけが入っているように思えた。

 何だか、理論的なのか感情的なのかわからない奴だな。

 晴道はジトっとした目を珠希に向けた。

 それにすかさず気づく珠希。

「何ですか、その目は」

「いや……。あんた、真面目すぎてとっつきにくいかと思ったら、意外と人間らしい所もあるんだな、と思って」

 そう思わせたのが銃を撃つ撃たないの問題だという所が微妙ではあるけれど。

 おまけに、あの時珠希が障害銃を抜いたのは、恐らく規則違反だったのだろう。更紗もミラもそんな理由で珠希を責めていた。

 任務に忠実なのは確かだけれど、それに従ってただ盲目的に銃を撃ってるってわけじゃないんだな。

 一方珠希は、晴道の指摘に虚を突かれた表情で問い返した。

「とっつきにくい? どういう意味ですか!」

「別に深い意味は無いぜ。ただ、あんたに撃たれて死ぬのは絶対ごめんだって再認識させられたな」

「なっ、晴道! 先程まで沈んでいたかと思ったら、早くも開き直ったのですか!」

 珠希の右手が早くも腰に伸びかけた。

「おい、私情じゃ撃たないって言っただろ!」

「不適切発言があれば別です!」

「あんたの行動の方が不適切だ!」

 と、

「……少年少女、こんな時にじゃれ合うな」

 更紗が嘆息交じりに仲裁する。

「ミラも、どさくさにまぎれてケンカに便乗しようとするな」

「えー? だってよ、暴れ損じまったんだぜ? 一発くらいいいだろ?」

 悪びれる風も無く拳をしゅしゅっと振るうミラ。視野外で構えていたとは、全く気が付かなかった。

 更紗はミラの頭をグリグリしつつ、珠希に言った。

「珠希、のんびりしている時間も無いんじゃないか? ここはセルの施設内だぞ」

 はっ、と珠希が正気に戻る。

「すみません、私としたことが」

「いや、いいんだ。ただお前が仕切ってくれないとなると、私が気を張らないといけなくなるからな。責任重大なセリフをしゃべらせるのは専門分野だけにさせてくれ」

 苦笑いしつつ訴える更紗。

 この白衣の科学捜査員も、随分と勝手な性根をしているらしい。自分の専門以外は珠希に丸投げだ。

 そして、頭グリグリの何がそんなに恐ろしいのか、顔面蒼白で「ぎゃぁあ! 殺される!」と喚いている無鉄砲な捜査官も、自分の道を突っ走る傾向を丸出しにしている。

「大丈夫なのか、オルタ……」

 三人に聞こえないように呟く。

 細胞傷害、細胞時間加速、超駆動を持つ変異種の彼女たち。発現抑制の形質を持つとはいえ、その発現法がわからない晴道にとって、彼女たちが攻撃意思を見せればひとたまりも無い。

 そして断罪――

 オルタが、危険とみなした変異種を殺害する理由は教えられた。

 変異種の存在自体が罪であると言われる理由も。

 そしてそれを利用しようとする久澄、つまりセルの意図も。

 更紗の言葉を借りるようだが、みすみすセルにつく気は無い。突然変異を組み込んだ生物兵器など、誰が望むというのだ。

 オルタのやり方の全てを肯定するつもりはないが、そのせいで死にたくもない。

 ふっ、と晴道は息をついた。

「とりあえず、あんたたちについていくよ」

 吹っ切れて爽やかな表情で発したそのセリフは、「リコンビナントに自己消化アポトーシスが導入済みだったのか!?」という更紗の吃驚と、「更紗ぁぁあ!」というミラの喚声によって見事にかき消されてしまった。

「え? 何ですか?」

 珠希が訊き返す。

 今更訊き返されても、決めゼリフを二度も言えるわけがない。

「……もうどうにでもしろ……」

 頭を抱え、半ばヤケになりながら降伏した晴道だった。

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