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2章の6

「銃まで使い分けてるんだろ。リコンビナントとは別の理由で殺そうとしてるってことだ」

 晴道の視界の中、珠希の右腕が動く。

 ブレザーの合わせ目に手を入れ引き抜いたのは、あの金色の装飾が入った銃だ。

「こちらの銃、断罪銃パニッシュは、危険分子と認識された変異種を遺伝情報レベルで消滅させるために携行しているものです」

 ――遺伝情報レベルで消え去りなさい。

 珠希が久澄にそう言い放ったのを思い出す。

「断罪銃は障害銃と違って、実弾を装填するタイプです。弾に配合された自己死アポトーシス誘起物質によって、標的のDNAは完全に分解されます」

「その様相は自己消化と変わらない。見ただろう、リコンビナントの死を。あれと同じように、久澄調は跡形なく消滅する予定だったんだ」

 更紗が加えた。

「何で――」

「遺伝子レベルの分解を必要とするのか、だろう?」

 問いを見透かされ、晴道は戸惑いつつも頷く。

 更紗は満足げに笑み、続けた。

「死体から遺伝子を採取できないようにするためだ」

「……?」

 更紗は後ろ手に手を組み、あてどなく歩き回り始めた。

「個体が命を失っても、体を構成する細胞は残る。それを採取し解析に掛ければ、個体が持っていた遺伝情報を得ることができる。突然変異を記した遺伝子に関しても同様だ」

 立ち止まる。足元には割れた花瓶。ミラが突入してきた時に巻き添えを食ったものだ。

 更紗は身を屈めると、床に落ちていた花弁を手に取った。

「恐らく久澄は言っただろう。突然変異は一つの資源、そしてその遺伝子を利用しろと。変異種は、その能力は元より、それを記した媒体である遺伝子にも価値があるんだ。採取した遺伝子。これは何に使われると思うか?」

 不意に投げられた問いに、晴道は戸惑う。

「え……遺伝子を? ……」

「わからないか。それならミラ、教えてやれ」

 ぽいっ、と鮮やかな緋色の花弁が放られる。

 空気抵抗をまともに受けて大して飛ばなかったが、放物線の先のミラは、ちらりとも見ないまま花弁を空中で掴み取った。

「リコンビナントに組み込むんだよ。死体からでも生きてる奴からでも、役に立ちそうな突然変異の遺伝子を採ってきて。そうすりゃ突然変異を持ってるリコンビナントが作れるだろ? 今みたいに頭数勝負の使い捨てじゃなくて、少数精鋭の生物兵器部隊が作れるってわけだ」

「……」

 ミラの持っていた花弁を、珠希が取る。

 黒服の少女は、じき命を失う緋色を擡げた。

「遺伝子を有した細胞が存在する限り、セルの計画は進行します。セルの手に渡った突然変異遺伝子は、もはや兵器の材料としか言えません。だから私は、守るべきでないとみなした変異種に対し断罪銃パニッシュによる死を――断罪を下すのです」

 漆黒の瞳が艶めく。

「断罪の意義は完全消滅――後に死体から遺伝子を回収されないために。罪人に死してなお罪を重ねさせないように」

 緋色を見ていた珠希の目線が、花弁を過ぎて晴道へと行きつく。

「元来、突然変異は〝脅威〟です。視点を変えれば……私たち変異種の存在自体が、紛れもない罪なのです」

 はらりと、ひとひらの花びらがはがれ落ちた。

 伏した白亜の床板の上、花びらは身じろぎ一つしない。

 しかし死を目前にしてもなお、纏う鮮やかな色彩が存在を強く誇張し続けている。

 ……存在自体が罪。

 常人とかけ離れた能力を持つが故に生まれる、潜在的脅威という名の罪。遺伝子に刻まれた形質が悪を紡ぎ出す可能性は、全ての変異種が有している。

 罪から逃れる術はただ一つ。正義という理念の下に危険分子を排除すること。

 悪を裁く存在になること。断罪を下す意思を持つ人間になること。

 故に――それ以外の人間は罪人である。

「……」

 晴道は何か言葉を返したかった。しかし、その絶対正義の理論を崩す言葉など、今はどこにも持ち合わせていなかった。

 例え何か言えたとしても、対峙する黒服の少女を頷かせることはできないだろう。それほどまでに彼女の瞳は強い意思を灯している。揺るぎなき想いは言葉に載らずとも、漆黒の瞳から溢れ出ている。

 それなら俺は、珠希に守られるべき存在でいればいいんだろうか。

「ま、この時点で決めろというのはいささか早急すぎるか」

 肩をすくめる更紗。

 その一言で、硬直しかけていた場の空気がふっと緩んだ。

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