2章の3
「なぁ、珠希……あんたはそう捉えたのかもしれないけど、俺はあんたたち――オルタに加わりたいなんて一言も言ってないぜ」
ためらいがちにそう言った。
ぴく、と珠希は片眉を上げた。
「あなたは確かに同意したではありませんか」
「それはあんたが言った『守る』って言葉にだけだ」
罪人とならない限り、守る。その言葉に。
晴道は頭の中でその場面を反芻しながら、珠希の反応を待った。更紗は怪訝そうな顔で「?」と首をひねったままだ。
珠希は俯いて、口を閉ざしていた。
「珠希、俺は――」
珠希の瞳が晴道を穿った。
瞬時に彼女は、体を投げ放つように姿勢を変えた。
右手が腰の後ろに回される。
刹那、晴道はその物体の正面映像を捉えた。
「っっ!?」
撃たれる!
とっさに晴道は目をつむった。
が、
「……え?」
そう漏らしたのは珠希だった。
恐る恐る目を開く。体には何の衝撃も感じていない。
開いた視界の中央には、銃口の黒い深淵があった。
しかし使い手の少女は、当惑した表情で自身の銃を窺っていた。
「なっ……なぜ反応しないのです」
珠希は焦燥した声で呟き〝引き金から指を離した〟。
――!
晴道はようやくその事実に気づいた。珠希の指は既に、引き金を引き終えていたのだ。
それにも関わらず、銃声は響かなかった。
「傷害銃が……まさか不具合でしょうか。任務の最中になんて……」
冷や汗を浮かべながら、珠希は鈍色の銃を見回した。
故障だろうか。ともかく助かった。
晴道はほっと胸を撫で下ろした。
「……いや、傷害銃のせいというよりも珠希、お前の方に何かされたんだろう」
そう挟んだのは、更紗。どこか浮足立った表情で珠希に歩み寄った。
「元々この銃は単なる照準器だ。実際に発射されるのは細胞傷害物質……お前の細胞が任意に過剰生成する物質だ。それが阻害されたということは……」
すっと、更紗の視線がこちらを向く。
「どうやらこの現状が、沖田晴道、お前の変異形質を示しているようだな」
珠希の横に立つ更紗。遅れて珠希も、銃から棒立ちの晴道へと視点を移した。
更紗はこちらを向いたまま言った。
「珠希、晴道以外を狙って撃ってみろ」
「え? ……わかりました」
珠希は怪訝そうにしながらも、頷いて病室内を見回した。
窓の所に置かれた花瓶を認める。
珠希は活けられた花に向かって銃を構えた。
瞬間、破裂音が弾ける。
その聞き慣れない騒音に、晴道はびくりと身をすくめた。
「……」
窓枠にぽとりと落ちた花弁。
先端を失った茎は、花瓶に挿されたままだった。銃弾は見事に、幅一センチも無い茎を撃ち抜いていた。
不思議な事に、花瓶のすぐ後ろに下がるカーテンはどこも破れていなかった。
「……正常です。銃声の発生装置もちゃんと駆動しました。それなら……」
漆黒の瞳がこちらを向く。
珠希は眉をきっとつり上げ、しかし睨むでもなく、晴道を見つめた。
こつっ、と更紗の靴が一歩前進する。
「そう、これが『リコンビナント生産組織【セル】新規形質開発部門室長』が目をつけた突然変異だ」
まるで興味深い研究対象を見るような顔で述べた。




