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神に転生したが、石像から動けない ―管理社会における神性観測記録  作者: 鷹宮ロイド


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第29話 石像の前に立つ者

 最初に気づいたのは、数値ではなかった。


 現場の職員が、ぽつりと漏らした一言だった。


「……最近、問い合わせの再訪率が下がってます」


 エリオ・クレインは、その言葉に視線を上げた。


「下がっている?」


「はい。一度問い合わせた方が、再度来るケースが減っています」


 それは、良い兆候に聞こえる。


 だが、エリオは、理由を尋ねた。


「説明が、効いている?」


「それが……」


 職員は、少し言いよどむ。


「説明前後での変化が、確認できません」


 説明は、相変わらず正しい。

 理解度も、高い。


 それでも、再訪が減っている。


「他に、共通点は?」


 職員は、別の資料を表示した。


「非公式ですが……神殿付近の滞留記録と、重なっています」


 その場が、静かになった。


 神殿。


 設備扱い。

 測定対象外。


 だが、そこに人が立っていること自体は、否定できない。


「因果関係は?」


 エリオは、即座に聞いた。


「不明です」


 即答だった。


「相関はありますが、再現性は確認できていません」


 それなら、結論は一つだ。


「扱えませんね」


 エリオは、そう言った。


 制度は、因果を扱う。

 相関だけでは、動けない。


 それでも、その日の報告書には、一行が追加された。


備考:神殿付近滞留者において、問い合わせ再訪率低下の傾向あり(要観察)


 「要観察」。


 それは、保留の言葉だ。


 禁止でも、承認でもない。


 リア・ノートは、その一行を見て、眉をひそめた。


「……観察、するんですか」


「しない理由がない」


 エリオは答える。


「排除する理由も、ありません」


 リアは、神殿の方向を見た。


「でも、測れないですよ」


「分かっています」


 エリオは、珍しく即答した。


「だから、制度には載らない」


 その言葉に、リアは少しだけ安堵した。


 神殿に、人が立つ。


 それは、事実だ。


 だが、制度がそこに介入しない限り、

 神殿は、意味を奪われない。


 その夜、神殿の前には、七人が立っていた。


 誰も、指示していない。

 誰も、説明していない。


 ただ、立つ。


 そのうちの一人が、帰り際に、隣の人に言った。


「……少し、楽になりました」


 理由は、言わない。


 聞かれないからだ。


 俺は、その様子を見ている。


 効果は、ない。

 奇跡も、起きていない。


 ただ、人が、意味を外に出さずに済んでいる。


 それは、測れない。

 だから、制度は、触れない。


 触れない限り、壊れない。


 だが、見えてしまった以上、

 いつか、誰かが、測ろうとする。


 その予感だけが、石の内側に残った。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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