第19話 神性反応:ゼロ
通知は、定時に届いた。
いつもと同じ形式。
いつもと同じ文面。
神性反応:測定不能
判定:ゼロ
備考:影響なし
エリオ・クレインは、その表示を見て、ほんの一瞬だけ目を留めた。
測定不能。
以前なら、調査対象だった言葉だ。
だが今は、違う。
「……ゼロ、か」
呟いてから、端末を閉じる。
問題はない。
想定の範囲内だ。
神性依存度は、段階的に下げられてきた。補助要素としての参照も、ここ数週間は使われていない。測定できないのは、単に必要とされていないというだけだ。
会議でも、その件はすぐに流された。
「反応ゼロ、継続です」
報告は、それだけだった。
「了解」
誰かが頷き、次の議題に移る。
それで終わりだ。
神殿の映像は、定点カメラで確認されている。
異常侵入なし。
設備劣化なし。
人の滞留、ほぼゼロ。
エリオは、映像を一度だけ見た。
石像は、そこにある。
以前と変わらない。
ただ、誰も見ていない。
数値上、問題はない。
だから、対応もない。
リア・ノートが、隣の席で端末を操作している。
「……反応ゼロ、続いてますね」
彼女の声は、淡々としていた。
「想定通りです」
エリオは、そう答えた。
それ以上の言葉は、不要だった。
神性反応がゼロでも、世界は回っている。
事故もない。
成功率は、むしろ上がっている。
だから、これは進歩だ。
午後、被験区域の最新データが更新された。
総合評価:問題なし
推奨:現行手順の継続
マルタの名前も、その中にある。
数値は、すべて基準内。
変化は、検出されていない。
エリオは、報告書を閉じた。
何も、言うことはない。
夕方、施設の廊下を歩いていると、神殿に向かう連絡路の表示が目に入った。
利用者:なし
点検:月次
設備扱いになった神殿。
それは、自然な流れだった。
危険性がなく、影響がなく、価値が測定できないものは、管理対象から外れる。
エリオは、足を止めなかった。
止める理由が、ない。
同じ頃、神殿では、風が吹いていた。
祈る声は、ない。
足音も、ない。
石像は、そこにある。
だが、反応はない。
神性反応:ゼロ。
それは、沈黙ではなかった。
観測の終了だ。
世界は、神を失ったわけではない。
神を否定したわけでもない。
ただ、
測らなくなっただけだ。
夜、エリオは一日の記録を提出した。
最後の項目に、いつも通りの言葉を入力する。
特記事項:なし
送信ボタンを押す。
それで、この日は終わった。
事故は起きていない。
失敗も、確認されていない。
神性反応がゼロでも、
世界は、静かに前に進んでいた。
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