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神に転生したが、石像から動けない ―管理社会における神性観測記録  作者: 鷹宮ロイド


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第17話 事故ではない

 最初に変わったのは、朝の感覚だった。


 マルタは、目覚ましが鳴る前に目を覚ました。理由はない。悪夢を見たわけでもない。ただ、眠りが浅かった。


 体を起こし、しばらく天井を見つめる。


 ――何か、あっただろうか。


 昨日のことを思い返す。

 パン屋に行った。

 健康チェックを受けた。

 日記を書いた。


 どれも、問題ない。


 マルタは、ゆっくりと立ち上がった。


 立ちくらみはない。

 体調も、悪くない。


 それなのに、足取りが少しだけ重い。


 朝食を作りながら、ふと手が止まった。


 フライパンを持つ手が、わずかに遅れる。

 落としたわけではない。

 力が入らないわけでもない。


 ただ、一拍、遅れた。


「……あれ?」


 マルタは、首を傾げる。


 だが、そのまま作業を続ける。

 失敗はしていない。

 誰にも迷惑をかけていない。


 午前中、近所の人と話した。


「最近、調子どう?」


「ええ、大丈夫よ」


 そう答える声は、いつも通りだ。

 嘘ではない。


 午後、被験区域の定期確認が行われた。


 担当者は、端末を見ながら言う。


「本日も、異常なしです」


 マルタは、ほっと息をついた。


 異常なし。

 その言葉がある限り、安心していい。


 だが、帰り道、また足が止まった。


 横断歩道の前だ。

 信号は青だった。


 それでも、渡らなかった。


 理由は分からない。

 怖かったわけでもない。


 ただ、今じゃない気がした。


 次の瞬間、横を通り過ぎた自転車が、風を切っていく。


 もし一歩踏み出していたら、接触していたかもしれない。

 だが、実際には何も起きていない。


 マルタは、胸を押さえた。


「……気のせい、よね」


 家に戻り、窓辺に座る。


 頭の中が、少しだけ静かすぎる。


 考えが浮かぶまでに、間がある。

 言葉が出るまでに、間がある。


 それは、誰にも気づかれない程度だ。

 自分でも、はっきりとは言えない。


 夕方、施設から連絡が入った。


「体調に変化はありませんか?」


 マルタは、少し考えてから答えた。


「……特には」


 それは、正確な答えだった。


 異常と呼べるものは、何一つない。


 夜、日記を開く。


今日も異常なし。


 いつもと同じ言葉を書こうとして、手が止まった。


 代わりに、こう書いた。


今日は、少しだけ、考えるのが遅い気がする。


 書き終えてから、ペンを置く。


 不安はない。

 恐怖もない。


 ただ、確実に変わっている。


 その変化が、事故でも、病気でも、異常でもないからこそ、

 誰にも説明できない。


 同じ頃、施設ではデータが更新されていた。


認知反応:基準内

行動遅延:誤差範囲

総合評価:問題なし


 エリオ・クレインは、その評価を見て、頷いた。


 正しく運用した結果だ。

 問題は起きていない。


 だから、これは失敗ではない。


 マルタは、布団に入り、目を閉じる。


 眠る直前、ふと、思った。


 ――前は、こんなふうに考えなかった。


 その気づきは、形にならないまま、意識の奥に沈んでいく。


 この日も、被験区域では、事故は起きなかった。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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