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そこは屋内でありながら、ジャングルがある熱帯の宮殿だった。
水槽にはサメが我が物顔で泳いでいるし、イルカの飼育場があるし、トラの囲いもある。まさに桃源郷だった。
そんな非現実な世界にいながら、エドゥアルトの反応は紙より薄い。
さすがに動物にはしゃぐ歳でもないし、彼ぐらいの年頃になるとある種の特別な動物でないと心が躍らないのだ。――人間の女。
かといってデートに来たわけでもないし、ましてや意中の女性がいるわけでもない。
そんなわけで吸い殻山盛りの灰皿をわきに置いて、巨大な鶏の腿肉にかぶりついていた。
――そんな生活してたら体壊しちゃいますよ? エディさん――
不意に、ある人のことを思い出す。浮かぶのは、かつて曲芸師を目指していた少女の笑顔。
人間の女だけど“そういう対象”とは違っていて、もっとこう、決して触れてはいけない宝箱のような――
「……なんで今思い出しちまうかね」
「思い出す回数が増えていくのは、歳を取った証拠だぜ」
背後からの声に気づき、エドゥアルトはゆっくりと振り返る。
トラが収められている檻のうしろから現れる長身の人影。その正体を、彼は知っていた。
「……ユリシーズか」




