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『我々は所詮治療薬だ』
不意にペルセフォネがそんなことを言ってきた。
父母を亡くしてからアイリスと妹の後見人になってもらって以来、それなりに生活を共にしてきたが、未だに何を考えているのか分かりかねる時がある。今がそう。
『石でつまづき、怪我をした膝の傷に塗れば治りが早くなるかもしれん。だが痛みは変わらん。本当は先手を打って石を退けるべきなのにな』
何とも言えない気持ちになる。
残念ながらそれが天馬騎士団の限界だ。事件が起こらなくては身動きが取れない。被害者を守りたいとどれだけ願っても、騎士が動いた時にはもう“コトは済んでいる”のだから。
天馬騎士団に先手は打てない。
しかしなぜここでそれを言うのだろう。
アイリスはコトが済む前に事件を終わらせたのに。
『念の為聞いていいか?』
「? ……はい」
『ノアの件はお前から聞かされた。奴が爆破を目論んでることも。誰もが証拠がないと断じたが私は信じた。大妖精ニーヴは無能だと思っているので崇拝も尊敬もしていないが、私が育てた部下は信頼している。叙任式で剣を渡した相手なら尚更だ』
何か、猛烈に嫌な予感がする。
全身の毛穴が開いて汗が吹き出る。
『ツークツワンクは知っているか?』
不意にペルセフォネがそんなことを聞いてきた。
アイリスは過呼吸気味に口を開く。
「チェス用語ですね。次の一手を打てば、チェックメイトを逃れられない局面です……」
ペルセフォネは騎士としての実力もさるものながら兵法にも秀でている。その一環でチェスも嗜んでいるのだ。ちなみにアイリスは一回も勝てたことがない。
『正解だ。わかりやすくするとこう言うことだ。――先手を打つ』
ドクンとアイリスの心臓が跳ねる。
天馬騎士団に先手は打てない。
だけどアイリスは先手を打った。
先手を打って石を退かした。
『奴がウラニウム爆弾で都市を吹き飛ばすと、どうやって分かった?』
言えない。
まだ言うわけにはいかない。
まだ“アレ”を知られるわけにはいかない。
ましてや独房そっくりのスタジオを作り、爆弾魔を刑務所からさらって尋問したなんて、どこの誰にも言えるわけがない。
親代わりの人なら尚更だ。
だからアイリスはこう答えたのだ。
「簡単です。私は未来が読めるからです」




