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The Tír na nÓg 〜ティル・ナ・ノーグ〜  作者: 佐藤つかさ
序章
8/222

1-8

「見つけた」

 主のいない独房で、アイリス・リベルテは聖書に隠されていた起爆装置を取り出した。

 立方体の完全密室。だけどここにはクラリスはいないし、ノアもいない。

 だけど二人がいた場所と寸分違わず同じだった。

 否。今アイリスがいる場所こそ本来の場所なのである。

 

 ここまでの経緯は、ちょっとしたトリックだ。

 ノアが爆弾及び起爆スイッチを隠していたことは、事前に分かっていた。分からなかったのはどこに隠したのか。

 だから“独房そっくり”のスタジオを用意して、そこにノアを入れて一芝居打った。「火事だ!」と叫んでもらうエキストラまで雇って。あとは自分に酔った彼が白状するのを待てばいい。そしてそれは成功した。

 

「仕込んだ甲斐はあったかな……」

 ボソリとアイリスは呟く。

 天馬騎士団の備品であるクリコムの違法持ち出し、天馬騎士団の証であるネックレスの――妹の変装のため――譲渡じょうと。バレれば首が飛ぶかもしれない。物理的に。

 

「先輩、何かありましたか?」

 

 遠くから仲間の声がする。後輩のアレイオンだ。控えめな態度ではあるが、立ち振る舞いに無駄がなく、どこか育ちの良さを感じさせた。

 関係ないが彼とは古い付き合いである。いろんな理由で。

 

「証拠品が見つかった。私から報告するから!」

「分かりました!」

 

 こそこそ入る必要はないため、クラリスとは異なり天馬騎士団の制服姿である。長く伸ばした髪もしっかりポニーテールにして結えている。

 あとは爆弾の隠し場所だが、そっちは起爆装置より簡単だ。爆弾魔の心を読めばおおよその検討はつく。

 

 クリコムを口元に近づけて、アイリスは深呼吸する。これから話す相手は、下手をすればこの世を創生せし大妖精ニーヴよりも大きな存在だ。正直泣きたい、逃げたい、貝になりたい。

 

 だけどそうも言っていられない。ティルナノーグ市民3万人を救う大仕事なのだ。

 意を決して、アイリスは通信を開いた。

 

『何だ?』

 可愛らしい声にそぐわぬ硬派な口調。

 天馬騎士団は幾万のドラゴンも恐れないが、「彼女」ただ一人を恐れてきた。アイリスもそうだ。

 

「……っ。ガーランド様」

『要件を言え』

「はい。脱走したノア・ハイデリヒの居場所をつかめました。北西地区の小屋です」

 毛髪や所持品などの証拠は全て抹消済みだ。あとはクラリスが小屋から逃げてくれればいい。

 

『……ツークツワンク』

「はい?」

『分かった。第7師団を捜索に向かわせる。……あぁ。そういえば』

「何でしょうか?」

『爆弾は中央噴水エリアで発見された。お前が教えてくれた通りになったな』

 

 噴水はティルナノーグの中心に作られていて、観光で賑わうこの都市は、常に多くの人が賑わっている。テロリストにとっては最高の立地条件だろう。

 

 良かった。どうやら世界を救えたらしい。


 アイリスは肺から息を絞り出すように息をついた。緊張が解けて脚が震え出す。

 

「あの、ガーランド様」

『名前でいい。私はお前の後見人だぞ?』

「わかりました。ペルセフォネ……様」

 

 少しの間を置いて吹き出す声が、水晶の向こうから聞こえた気がする。

 まさか笑ったのか? ティルナノーグ天馬騎士団副騎士団長ペルセフォネ・ガーランドが?

 初対面の異国の王に「私の事は気さくに『ガーランド様』と呼べ。あるいは死ね」と言い放つあの人が?

 明日は雨かもしれない。

「いや、世界が燃えるかも……」

『何か言ったか?』

「いえ何も!」

Starring 【人物紹介】


ペルセフォネ・ガーランド

Creator:加藤ほろさん

http://tirnanog.okoshi-yasu.net/characters/persephone/


アレイオン・ガーランド

Creator:加藤ほろさん

http://tirnanog.okoshi-yasu.net/characters/areion/

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