1-8
「見つけた」
主のいない独房で、アイリス・リベルテは聖書に隠されていた起爆装置を取り出した。
立方体の完全密室。だけどここにはクラリスはいないし、ノアもいない。
だけど二人がいた場所と寸分違わず同じだった。
否。今アイリスがいる場所こそ本来の場所なのである。
ここまでの経緯は、ちょっとしたトリックだ。
ノアが爆弾及び起爆スイッチを隠していたことは、事前に分かっていた。分からなかったのはどこに隠したのか。
だから“独房そっくり”のスタジオを用意して、そこにノアを入れて一芝居打った。「火事だ!」と叫んでもらうエキストラまで雇って。あとは自分に酔った彼が白状するのを待てばいい。そしてそれは成功した。
「仕込んだ甲斐はあったかな……」
ボソリとアイリスは呟く。
天馬騎士団の備品であるクリコムの違法持ち出し、天馬騎士団の証であるネックレスの――妹の変装のため――譲渡。バレれば首が飛ぶかもしれない。物理的に。
「先輩、何かありましたか?」
遠くから仲間の声がする。後輩のアレイオンだ。控えめな態度ではあるが、立ち振る舞いに無駄がなく、どこか育ちの良さを感じさせた。
関係ないが彼とは古い付き合いである。いろんな理由で。
「証拠品が見つかった。私から報告するから!」
「分かりました!」
こそこそ入る必要はないため、クラリスとは異なり天馬騎士団の制服姿である。長く伸ばした髪もしっかりポニーテールにして結えている。
あとは爆弾の隠し場所だが、そっちは起爆装置より簡単だ。爆弾魔の心を読めばおおよその検討はつく。
クリコムを口元に近づけて、アイリスは深呼吸する。これから話す相手は、下手をすればこの世を創生せし大妖精ニーヴよりも大きな存在だ。正直泣きたい、逃げたい、貝になりたい。
だけどそうも言っていられない。ティルナノーグ市民3万人を救う大仕事なのだ。
意を決して、アイリスは通信を開いた。
『何だ?』
可愛らしい声にそぐわぬ硬派な口調。
天馬騎士団は幾万のドラゴンも恐れないが、「彼女」ただ一人を恐れてきた。アイリスもそうだ。
「……っ。ガーランド様」
『要件を言え』
「はい。脱走したノア・ハイデリヒの居場所をつかめました。北西地区の小屋です」
毛髪や所持品などの証拠は全て抹消済みだ。あとはクラリスが小屋から逃げてくれればいい。
『……ツークツワンク』
「はい?」
『分かった。第7師団を捜索に向かわせる。……あぁ。そういえば』
「何でしょうか?」
『爆弾は中央噴水エリアで発見された。お前が教えてくれた通りになったな』
噴水はティルナノーグの中心に作られていて、観光で賑わうこの都市は、常に多くの人が賑わっている。テロリストにとっては最高の立地条件だろう。
良かった。どうやら世界を救えたらしい。
アイリスは肺から息を絞り出すように息をついた。緊張が解けて脚が震え出す。
「あの、ガーランド様」
『名前でいい。私はお前の後見人だぞ?』
「わかりました。ペルセフォネ……様」
少しの間を置いて吹き出す声が、水晶の向こうから聞こえた気がする。
まさか笑ったのか? ティルナノーグ天馬騎士団副騎士団長ペルセフォネ・ガーランドが?
初対面の異国の王に「私の事は気さくに『ガーランド様』と呼べ。あるいは死ね」と言い放つあの人が?
明日は雨かもしれない。
「いや、世界が燃えるかも……」
『何か言ったか?』
「いえ何も!」
Starring 【人物紹介】
ペルセフォネ・ガーランド
Creator:加藤ほろさん
http://tirnanog.okoshi-yasu.net/characters/persephone/
アレイオン・ガーランド
Creator:加藤ほろさん
http://tirnanog.okoshi-yasu.net/characters/areion/




