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『何だと?』
「未来を読める友人がいるんですよ」
頼りになる情報屋がいて、そいつから聞き出したと、冗談めかしてアイリスは話した。
『男か?』
「ええ、たぶん」
『今度紹介しろ。離婚してからその手の話題に縁遠くてな』
言葉とは裏腹に心底興味を無くしたような声色になっていた。
間違いなく冗談だろうとアイリスは確信していた。何せペルセフォネ・ガーランドといえば堅物だと騎士仲間の間では有名で、何より“噂のあの人”もしくは“ツンデス”の異名を持つ。
ちなみにツンデスとは、ツンツンしているが時にデス(殺す)という意味らしい。
おそらく、もうしばらくは結婚の話題から遠いだろう。それはたぶんきっとあの人が……
『何か思ったか?』
「いえ何も!」
慌てて挨拶も程々に、アイリスは通信を断ち切った。
いらない緊張をしてしまったとため息をつく。
顔を上げると――いた。
鳥が。
そう、鳥だ。
鳥だ。
8年前にお父さんを食い殺したあの鳥だ。
立方体の独房を埋め尽くす、黒灰の鷲。
音もなく、影もなく、前触れもなく、まるで当たり前のように丸まって、アイリスを赤い瞳で見下ろしている。
アイリスは目を見開いて、その目を見返していた。まるで怨敵を見るように。まるで仇を見るように。
空気が淀んでいくのを感じる。
床は温かみを失い、まるで氷のようだった。
土着信仰において、魂は頭に宿るのだという。
だとすればこれは、頭にこびりついた幻だ。
8年前に現れた怪物。その姿は克明に、当時9歳の女の子の魂に刻まれていた。
怪物に生きたまま喰い殺される父親を見ることしかできなかった娘の気持ちがわかるか?
あの日あの無念こそが、今のアイリス・リベルテを形作っている。魂に色が宿り、頭に潜み、ずっと膨らみ続けている。そう今も。
こみ上げるものを感じてアイリスはのけぞり、両の手で口を押さえて咳き込んだ。
前のめりになってさらに激しく咳き込む。
指の間から赤いものが溢れてきた。
花びらが。
赤。花弁の赤。
赤。まるで薔薇のような。
びしゃびしゃと赤が床を跳ねる。
アイリスはなおも口から花弁を溢す。
赤、紅、赫。
床に広がっていく赤。
床に丸を描いて広がる花弁。
まるで赤のような。
まるで血のような。




