7-17
灰色の極彩色が、アイリス・リベルテの脳内で鳴り響いた。
空間がたるみ、意識が断続的に明滅する。
全身の端末が泡よりも塵よりも細かい何かに変化していくかのような感覚。
意識が際限なく自由落下と上昇を繰り返すような錯覚を覚え始めて、むき出しになった思考を色と音と香りと味が満遍なく果てしない瞬間となって理解する。
崖から落下する時のような、何もかもが終わるという確信。
このまま拡散してしまえばどれだけ心地よいだろう。
だけど慈悲深い過去がアイリスの魂を縛り付ける。それは茨に似ていた。茨。そう。黒い茨。
黒が舞う。夜のように。
夜。黒。月。鷲。アイリスが見た怪物。
父が死んだ。死ぬところをこの目で見た。
死体。父の死体。散らばった臓物。死体は何も言わない。それは故人のカタチをした肉に過ぎない。
殺した。父を喰った。黒い鷲。
サム・フレスベルグ。
鷲になった男。男だった鷲。そいつは何をしている?
知らない。8年前。出会った。父が死んだ日。父が殺された日。ずっと追ってる。追いかけてる。でも追いつけない。まるで月を追う狼のように。
「おとうさん」9歳のアイリスが言葉を紡ぎ、
「お父、さん」17歳のアイリスが世界を繋ぐ。
父の死。
喰らう。
母の死。火。桜。
妹。呪い。樹。命。枯。
父。父。父。
死。
私のせいだ。
アイリス・リベルテの瞼が開く。
その瞳孔は拡散していた。
覚醒。




