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The Tír na nÓg 〜ティル・ナ・ノーグ〜  作者: 佐藤つかさ
第二章 承
87/222

7-16

 レーツェルの瞳は、粘り気を帯びた光を放っていて、その輝きは次第に増していく。

  

(ボク)の能力は刺した相手に呪いをかける。どんなに勇猛果敢ゆうもうかかんな勇者であっても心は腐る。情熱は枯れて、魂に脂肪がへばりつく。愛を知ってる? 憎しみは経験した? 夢を見たことは? 悪夢はもう味わった? 希望はあるの? 失望したことは? だけどこの絶望の前にはどれも生ぬるいよ! 人間が鏡を見るたびに思い知るのは、あまりにも不完全で未熟で醜い自分自身なんだ!」

 

「話が長いっての」

 

 リリーシャは相手の殺意を吐き捨てる。相手の殺意は受け流せ。律儀に全部受け止めていたら心が死ぬ。

 伸びてきた触手――先端に矢じりのような金属片がついている――がリリーシャの喉元に迫りくる!

 が、リリーシャは落ち着き払った態度で、ほんの少し首をかしげるだけで、触手の一撃をかわしてのけていた。

 さらに別の触手が伸びて一斉に飛び掛かるが、その全てをリリーシャは躱してみせる。

 身をよじり、かすかに首をかしげて、触手と自分自身の間に数セルトマイスの絶妙な距離を空けて。

 

「わぁ、すごい」

 

 素直にレーツェルは感嘆かんたんの声を上げる。敵のくせに、こういうところは素直なのだ。

  

「あたしがあんたとどれだけ殺しあったと思ってるの? 今さらちゃっちい罠にかかると本気で思ってた?」

 

 

 レーツェルの返答は首を横に振る――否定だった。

 

 

「そうだね。ボクたちはもう秘密を分かち合ってる。まるで長年連れ添った親友みたいに」

 

 そしてにちゃあと偏執狂へんしつきょうめいた笑みを浮かべる。

 

 

()()()()()()()()()()()()

  

 

 その言葉の真意に気づいたのは、リリーシャの背後から肉をえぐる音がしたときだった。

 

 リリーシャが振り返ると、背中を刺し貫かれているアイリスの姿があった。

 

 

「……っ」 

 

 

 息をのむリリーシャをあざ笑うようにレーツェルが嬌声きょうせいをあげる。

 

 そして、彼女の相棒リリアーヌもまた呟いていた。

 

 

「この戦いは一対一じゃない。――二対二ですわ」 

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