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レーツェルの瞳は、粘り気を帯びた光を放っていて、その輝きは次第に増していく。
「僕の能力は刺した相手に呪いをかける。どんなに勇猛果敢な勇者であっても心は腐る。情熱は枯れて、魂に脂肪がへばりつく。愛を知ってる? 憎しみは経験した? 夢を見たことは? 悪夢はもう味わった? 希望はあるの? 失望したことは? だけどこの絶望の前にはどれも生ぬるいよ! 人間が鏡を見るたびに思い知るのは、あまりにも不完全で未熟で醜い自分自身なんだ!」
「話が長いっての」
リリーシャは相手の殺意を吐き捨てる。相手の殺意は受け流せ。律儀に全部受け止めていたら心が死ぬ。
伸びてきた触手――先端に矢じりのような金属片がついている――がリリーシャの喉元に迫りくる!
が、リリーシャは落ち着き払った態度で、ほんの少し首をかしげるだけで、触手の一撃を躱してのけていた。
さらに別の触手が伸びて一斉に飛び掛かるが、その全てをリリーシャは躱してみせる。
身をよじり、かすかに首をかしげて、触手と自分自身の間に数セルトマイスの絶妙な距離を空けて。
「わぁ、すごい」
素直にレーツェルは感嘆の声を上げる。敵のくせに、こういうところは素直なのだ。
「あたしがあんたとどれだけ殺しあったと思ってるの? 今さらちゃっちい罠にかかると本気で思ってた?」
レーツェルの返答は首を横に振る――否定だった。
「そうだね。僕たちはもう秘密を分かち合ってる。まるで長年連れ添った親友みたいに」
そしてにちゃあと偏執狂めいた笑みを浮かべる。
「でも彼女は知らないよねぇ」
その言葉の真意に気づいたのは、リリーシャの背後から肉をえぐる音がしたときだった。
リリーシャが振り返ると、背中を刺し貫かれているアイリスの姿があった。
「……っ」
息をのむリリーシャをあざ笑うようにレーツェルが嬌声をあげる。
そして、彼女の相棒もまた呟いていた。
「この戦いは一対一じゃない。――二対二ですわ」




