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The Tír na nÓg 〜ティル・ナ・ノーグ〜  作者: 佐藤つかさ
第二章 承
83/222

7-12

「ねぇ、ハンバーグ食べたくならない?」

 場の空気を読まないレーツェルの物言いに、リリーシャは顔をしかめた。

「好きに食べれば? 留置場の健康食で良ければね?」

「そうじゃなくてさーぁ?」

 

 仮に虎や獅子が笑顔を作ることができたとしたら、こんな風に笑うのだろうか?

 レーツェルが浮かべたそれは、まさにそれだった。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 一気に温度が低くなった気がしたのは、決して気のせいではないだろう。

 リリーシャにとって、その言葉は禁句だった。禁断の箱を開けてしまうの合言葉であり、絶対口に出してはならない滅びの呪文であった。

 冷え切っていく大気とは真逆にリリーシャの瞳の温度は跳ね上がっていく一方で、同時に頭はどこまでも怜悧れいりに冴えわたっていた。

 彼女の頭を占めているのは、ごく単純な言の葉。

 

 

 ――こいつは殺す。

 

 

 リリーシャが軽く手を握ると、炎がくしゃみをした。レーツェルが立っている氷柱のすぐ根元で。


 足場が揺らいで、レーツェルは脱出するべく空中にダイブする。

 ()()()()()()()()

 

 今度は中指と人差し指のはらを上向きに変える。すると、崩れていく氷柱がみるみる形を変えて押し広げられていき、やがて一枚の板のような形状になる。

 それは主をレーツェルからリリーシャに変えて、彼女の意のままに動く道具となっていた。

 

 リリーシャが指を軽く上げただけで、氷の板はまっすぐ上昇し、空中に浮かぶレーツェルを捕まえた。

 だけど速度が止まる気配はない。そのまま天井に突っ込み押しつぶす気なのだ。

 

 そんな状況にもかかわらず、レーツェルの魂は意気いき軒高けんこう

 

灼熱フレアを使えるのは、リリーシャだけじゃないよっ!」

 

 レーツェルは膝を折って、直接てのひらを氷の床に押し付ける。

 凍傷とうしょうの心配はない。掌は何千度もの高温に達していたからだ。

 湧き上がる蒸気が氷を突き破り、できた穴を通り抜ける。レーツェルの居ない氷の板はそのまま天井に突撃し、粉々に砕け散った。

 

「――落ちろ」

 

 リリーシャの細い指が縦一文字に降ろされる。 

  

 レーツェルがハッとして顔を上げると、天井からいくつもの氷が飛び掛かってきていた。

 薄い板にも似たそれは、さながらギロチンの刃のようだった。

 

 ここまでやるかと、レーツェルは顔を引きつらせていた。

 

 

「話が違くない? ティル・ナ・ノーグ」

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