7-12
「ねぇ、ハンバーグ食べたくならない?」
場の空気を読まないレーツェルの物言いに、リリーシャは顔をしかめた。
「好きに食べれば? 留置場の健康食で良ければね?」
「そうじゃなくてさーぁ?」
仮に虎や獅子が笑顔を作ることができたとしたら、こんな風に笑うのだろうか?
レーツェルが浮かべたそれは、まさにそれだった。
「人間とエルフの合い挽き肉って、どんな味がするのか試したくなぁい?」
一気に温度が低くなった気がしたのは、決して気のせいではないだろう。
リリーシャにとって、その言葉は禁句だった。禁断の箱を開けてしまうの合言葉であり、絶対口に出してはならない滅びの呪文であった。
冷え切っていく大気とは真逆にリリーシャの瞳の温度は跳ね上がっていく一方で、同時に頭はどこまでも怜悧に冴えわたっていた。
彼女の頭を占めているのは、ごく単純な言の葉。
――こいつは殺す。
リリーシャが軽く手を握ると、炎がくしゃみをした。レーツェルが立っている氷柱のすぐ根元で。
足場が揺らいで、レーツェルは脱出するべく空中にダイブする。
それが狙いだった。
今度は中指と人差し指の肚を上向きに変える。すると、崩れていく氷柱がみるみる形を変えて押し広げられていき、やがて一枚の板のような形状になる。
それは主をレーツェルからリリーシャに変えて、彼女の意のままに動く道具となっていた。
リリーシャが指を軽く上げただけで、氷の板はまっすぐ上昇し、空中に浮かぶレーツェルを捕まえた。
だけど速度が止まる気配はない。そのまま天井に突っ込み押しつぶす気なのだ。
そんな状況にもかかわらず、レーツェルの魂は意気軒高!
「灼熱を使えるのは、リリーシャだけじゃないよっ!」
レーツェルは膝を折って、直接掌を氷の床に押し付ける。
凍傷の心配はない。掌は何千度もの高温に達していたからだ。
湧き上がる蒸気が氷を突き破り、できた穴を通り抜ける。レーツェルの居ない氷の板はそのまま天井に突撃し、粉々に砕け散った。
「――落ちろ」
リリーシャの細い指が縦一文字に降ろされる。
レーツェルがハッとして顔を上げると、天井からいくつもの氷が飛び掛かってきていた。
薄い板にも似たそれは、さながらギロチンの刃のようだった。
ここまでやるかと、レーツェルは顔を引きつらせていた。
「話が違くない? ティル・ナ・ノーグ」




