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「舐めんな!」
可憐な姿にそぐわぬ――だけどもっとも彼女らしい――乱暴な口調で、リリーシャは魔術の構えを取る。
何もない空間が打ち震え、辺り一面が冷え冷えとした空気で満ちる。
「動くな」
その言葉とともに生まれるのは氷塊。
驚くべきことにそれは空中に浮かんでいた。レーツェルの周りに。数にして30は軽く超えるだろう。
そして上部はまるで鏡のように平らに加工されていた。それは踏みつけるのに最適な形。
浮かんでいる高さはまちまちで、レーツェルの近くにあるものもあれば、リリーシャに近いものもある。さながら二人をつなぐ赤い糸――もしくは階段のようであった。
「さっすがリリーシャっ! 氷結の魔法だねっ」
高さの優位性を失ったというのに、レーツェルは嬉しそうな声をあげる。
無論、炎の魔法をぶつけて追い払おうとしたが、リリーシャはその全てをよけて、風の魔法ではるか高く跳躍し、氷の足場を疾駆し――時にはスケートのごとく疾走し――その手で登り、一歩また一歩とレーツェルへと近づいていく。
相変わらず恐ろしい才能だとレーツェルは感心する。
長い付き合いとは言えないが、幾度となく彼女と殺しあっている関係だ。その密度は100年連れ添った恋人にも勝るだろう。あるいは100年いがみ合っている怨敵か。
それでもレーツェルが見てきた限り、彼女を目で追い切れたためしがない。
慣性。加速度。遠心力。手首のスナップに、あらゆる関節を動かすたびに得られる反動、足の踏み込みとそれによって生まれる反発力。それら無数の力の流れを、リリーシャは完璧に制御しているのだ。
自身の“人間以上に優れた五感”を通じて、周囲の力の流れを読み取り自在に操る才能。
彼女は人間を超越しているのだ。
あるいは、人間ではないからか。




