7-9
アイリスが串刺しにされる少し前に遡る――
「りぃーりぃーしゃーぁ? あぁーそぉ-ぼぉー?」
無邪気と狂気をかき混ぜたような声。
レーツェルという名の少女は、左手の指に挟んでいたカードをリリーシャ目がけて投げつける。
カードは金と黒のシックな組み合わせで彩られており、反対側には妖精や邪妖精の絵が刻まれている。占いに使うオラクルカードと呼ばれているものだ。
それが地面に突き刺さると、粘液が茹る音とガラスが砕け散る音が不協和音となって響き渡る。それだけで、このカードが一般のものと異なるのは明白だった。
「僕がルール決めるよ? ヒーローは僕で、リリーシャが悪役ね?」
子供みたいに話を勝手に推し進めながら、くるりくるりと得意げに指先で回すのは――愛用のピストルだ。
六連弾倉式のリボルヴァー。バレルを切り詰めて、グリップに豪奢な彫刻を施した競技用拳銃。
実戦用では決してない――娯楽のために作られた道具。
呪文の言葉と共に、ピストルの狙いを定めて――引き金を絞る。
「天使の祝福」
指先にたった数ジェムの重みを加えるだけで、撃鉄は下ろされ、弾倉に詰め込まれた雷管の尻を叩く。
弾丸がバレルリングの螺旋をなぞりながら突き進み、銃口から火花を噴いて飛び出した!
弾丸はまっすぐに床に散らばったカードのうち一枚を撃ち抜いた。
金属の牙に食い荒らされたカードは、若葉の色をまとった炎に焼かれて燃え広がる。
それはやがて人の形となり、頭に輪っかを携え長剣を構えた戦士と成る。
さらにレーツェルは銃の狙いを変えた。狙いは新たなカード。
そして呪文が唇より紡がれる。
「闇に潜む影」
再びカードを撃ち抜くと、今度は青い炎が包み込み、そそり立つ角を頭から生やし、三又槍を手にした人の形へと姿を変える。
レーツェルの左右を守る緑と青――天使と悪魔がはっきりと相手を見定めた。
――リリーシャを。
「…………」
睨まれたリリーシャは、短剣を構えて臨戦態勢となる。
「ねえ、知ってる?」
首をかしげて、まるで知ってる知識を披露したがる幼子のようにレーツェルは呟く。
「炎と影は仲良しなんだよ?」
まるで罪と罰みたいにさ、そう言ってレーツェルは笑った。




