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The Tír na nÓg 〜ティル・ナ・ノーグ〜  作者: 佐藤つかさ
第二章 承
70/222

6-18

 鈍色にびいろの旋風はさびの臭いがした。

 

 斬撃をすんでのところでかわして、アイリスはその場に着地する。

 襲い掛かるのは天馬騎士団。着用しているのは革鎧で、使い込まれているのかボロボロだった。

 アンドリューと如何なるつながりがあるのか知らないが、今はアイリスたちに襲い掛かっている。


 アクチェの言葉を思い出す。

 ――みんな信じたいものしか信じない――

 

 

 足元から影が伸びる。

 ハッとしてアイリスが顔を上げると――斧を持った大男が飛び掛かっていた。

 

 すんでのところで避けると、さっきまでアイリスがいた床が衝撃でえぐれ、木材の隙間から埃が舞い、衝撃を受け止めきれなかった釘が歪み、木材が吹き飛んだ。

 

 髭面の大男がちっと舌打ちする。

 粗暴な声。筋骨隆々とした体格で、全身から悪意と殺気をまき散らしている。騎士というより山賊だ。

 手にしている斧も手入れが施されていないのか刃が欠けているし、装飾の隙間に土が埋まっていてところどころが錆びついているし、柄は手垢まみれだった。

  

 それでも、アイリスにはこの男がどこの所属か分かっていた。 

 ある意味、良く見知っていた人が毎日着ていた革鎧とそっくりだったから。

 

 

 天馬騎士団第十師団。父と同じ装備だった。

 港で協力してもらったタケシ・コルコヴァの隊服は新しい世代のものであり、古い世代は――主に四十代以降の騎士たちは――革をなめした鎧を着用していたのだ。ティル・ナ・ノーグの外で活動することが多く、軽くて丈夫な装備が求められていたからだ。

 

 

 ――俺たち第十師団に居たんだよ――

 

 

 思い出すのはエルフたちの言葉。

 


 ――そこには俺たちより前から騎士やってた先輩がいたわけだ。まぁあれだよ。いじめってやつ――

 

 

 古い世代の騎士が今――アイリスの目の前にいた。

 

 

 ――偉っそーなあいつらの顔見るのが辛くて辞めちまったんだな――

 

 

「名前は?」

 気が付けば、アイリスは問うていた。その声は震えている。

 

 

 ――斧を振るい、オーガすら屠る勇敢な騎士。どんな荒くれ者も彼の前にはひれ伏すしかない――

 

 

「俺か?」

 男は歯垢がたまった歯をむいて笑う。そして戦闘中だというのに、おもむろに紙煙草を取り出し始めたではないか。アイリスを敵とも思っていない。

 

 

 ――農民から身一つで騎士になり上がった人なの! 正義感があってかっこよくって、何度ティル・ナ・ノーグを救ったかなんて数えきれないんだから――

 

 

 男は煙草をうまそうに吸って、紫煙を吐き出す。

 そして破顔しながら、アイリスに言ったのだ。 

 

 

「カーソン・ヴァルフレアだ」

 

 

 ――みんな信じたいものしか信じない――


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