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鈍色の旋風は錆の臭いがした。
斬撃をすんでのところで躱して、アイリスはその場に着地する。
襲い掛かるのは天馬騎士団。着用しているのは革鎧で、使い込まれているのかボロボロだった。
アンドリューと如何なるつながりがあるのか知らないが、今はアイリスたちに襲い掛かっている。
アクチェの言葉を思い出す。
――みんな信じたいものしか信じない――
足元から影が伸びる。
ハッとしてアイリスが顔を上げると――斧を持った大男が飛び掛かっていた。
すんでのところで避けると、さっきまでアイリスがいた床が衝撃でえぐれ、木材の隙間から埃が舞い、衝撃を受け止めきれなかった釘が歪み、木材が吹き飛んだ。
髭面の大男がちっと舌打ちする。
粗暴な声。筋骨隆々とした体格で、全身から悪意と殺気をまき散らしている。騎士というより山賊だ。
手にしている斧も手入れが施されていないのか刃が欠けているし、装飾の隙間に土が埋まっていてところどころが錆びついているし、柄は手垢まみれだった。
それでも、アイリスにはこの男がどこの所属か分かっていた。
ある意味、良く見知っていた人が毎日着ていた革鎧とそっくりだったから。
天馬騎士団第十師団。父と同じ装備だった。
港で協力してもらったタケシ・コルコヴァの隊服は新しい世代のものであり、古い世代は――主に四十代以降の騎士たちは――革をなめした鎧を着用していたのだ。ティル・ナ・ノーグの外で活動することが多く、軽くて丈夫な装備が求められていたからだ。
――俺たち第十師団に居たんだよ――
思い出すのはエルフたちの言葉。
――そこには俺たちより前から騎士やってた先輩がいたわけだ。まぁあれだよ。いじめってやつ――
古い世代の騎士が今――アイリスの目の前にいた。
――偉っそーなあいつらの顔見るのが辛くて辞めちまったんだな――
「名前は?」
気が付けば、アイリスは問うていた。その声は震えている。
――斧を振るい、オーガすら屠る勇敢な騎士。どんな荒くれ者も彼の前にはひれ伏すしかない――
「俺か?」
男は歯垢がたまった歯をむいて笑う。そして戦闘中だというのに、おもむろに紙煙草を取り出し始めたではないか。アイリスを敵とも思っていない。
――農民から身一つで騎士になり上がった人なの! 正義感があってかっこよくって、何度ティル・ナ・ノーグを救ったかなんて数えきれないんだから――
男は煙草をうまそうに吸って、紫煙を吐き出す。
そして破顔しながら、アイリスに言ったのだ。
「カーソン・ヴァルフレアだ」
――みんな信じたいものしか信じない――




