6-19
嘘だ。嘘だ……。
何度もこの言葉が、アイリスの頭の中で反芻する。
嘘だ。嘘だ……。
光が腐る音がする。
黴が広がり虫食まれていくような。
あるいは心臓をむしり取られたかのような。
どうしようもない絶望がのしかかる。
アンドリューは悪だった。
第十師団もそうだった。
カーソンは……。
どこか遠くで声がする。
アイリス、アイリスと何度も呼び掛けてくる声が。
るらるらりと心が落ちる。まるで枝から切り離された木の葉みたいに。
動けない。動きたくない。
死ぬかもしれない。
それもいいかもしれない。
………………。
……嫌だ。
意識が現実に戻る。
手足に力が宿る。
横薙ぎに振るわれていた斧の一閃を――アオリスは身を低くして躱した。
髪が何本か持っていかれたが、体は無事だった。
「……怖っ」
思わずそんな声が漏れる。死を求めていない証だ。
「やっと気が付いた?」
視界に入ったのは赤いリボン。――リリーシャだ。
彼女も騎士をあしらいながら戦っていた。
「気が付いたなら話早いわ。今からこの一帯吹っ飛ばすから、適当に逃げて」
「は? 吹っ飛ばすってどうやって?」
いうが早いか、リリーシャは手のひらに魔法陣を発現させる。それは魔法と呼ばれているシステムだった。ただしこことは別の大陸の。
「ちょっとリリーシャ何する気!?」
「言ったでしょ。この一帯吹っ飛ばすって。耳塞いで口空けて! ドカンとやっちゃうから――」
「ちょっと待って心の準備が――」
アイリスの絶叫は、眼前で発動した魔法の奔流に飲まれて消えていった。




