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The Tír na nÓg 〜ティル・ナ・ノーグ〜  作者: 佐藤つかさ
第二章 承
56/222

6-4

 カーソンさんに、会ってみたかった。

 そんなことを思うのは、時間が有り余っているからだろう。

 

 アイリスが今いるのは、プルミエールの端にある建物だった。

 温かみのあるヒノキの床に、冷たいレンガの壁。

 和洋折衷わようせっちゅうの空間に、碁盤ごばんのごとく無駄なくきっちりと並べられたマネキンが、たいまつの光に触れてほのかに輝いて見えた。

 

 ここに飾られている衣装は、次世代の魔法使いのローブである。高品質の魔法素材をふんだんに使ったもの。冒険で運用できる動きやすい軽量化素材を利用したもの。式典用の豪華なもの。デザイン優先のものまで千差万別だ。

 もしも実際の人間だったら、成人男性の平均体重は確か67キルトジェムだったかな、等とくだらないことを考えるようになってきているのは、退屈してきた証だろう。

 

 アイリスは武骨な天井を眺めながら、物思いにふけっていた。 

 カーソン・ヴァルフレアは、天馬騎士団第十師団師団長の名だ。

 斧を振るい、オーガすらほふる勇敢な騎士。

 どんな荒くれ者も彼の前にはひれ伏すしかない。

 

 カーソンはアイリスの父の部下だった人だ。

 アイリスが幼いころに父は亡くなった。アイリスの知らない父を、きっとカーソンは知っている。

 父はどんな人だったのだろう? かっこよかったのかな? みんなから立派だって言ってもらえていたのかな?

 話が出来ればよかったのだけど、第十師団は遠征が多いために出会える機会がなかったのだ。

 

 

 出世したいと願うのは、父に追いつきたいという想いからか。

 いや。たぶんきっと――

 

 

 今待っているのは、アクチェが呼んだ増援。

 金で雇った傭兵マシーナリィだそうだ。それも“元”第十師団の騎士たち。

 ひょっとしたら父の話を聞けるかもしれない。父は昔、第十師団の師団長だったのだ。

 

 人影が見えてきて、アイリスは手を振ってそれに答える。

 どうやら当たりだったらしい。人影も手を振って、アイリスに近づいてくれた。

 ここで違和感に気付く。


 アイリスの身長は162セルトマイス。女子としては平均的な身長だ。

 自身の目の高さと距離から、相手の身長がある程度予測できるのだが――

 

 何度計算しても290セルトマイスは軽く超えているのだ。

 何せマネキンの山から胴が見えるくらい抜きんでている。

 

 そして、実際に超えていた。

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