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The Tír na nÓg 〜ティル・ナ・ノーグ〜  作者: 佐藤つかさ
第二章 承
45/222

5-8

 柔らかな響きが空気を優しくなでる。

 世界から音が消える。

 人々のざわめきも、足音も、鳥のさえずりすらも。その一切が聞こえなくなっていた。

 

 アイリス・リベルテの歌以外は。

 

 歌詞はわからない。アイリス自身ですら。

 母に教わった唯一の歌であり、ひょっとしたらこの大陸の外から運ばれたものなのかもしれない。

 

 だけど観客にとってはそんな些細なことはどうでもよかった。

 少女の声が奏でる旋律と、優しい響き。それが魂に染みていく。それで十分だった。

 

 歌い終えた後で響き渡ったのは、喝采の拍手だった。

 気恥ずかしくなって、ぺこりと一礼だけしてからその場を後にした。

 オーナーが喜んでくれたけれど、申し訳ないがどう褒めてくれたのか全く覚えていない。それくらい緊張していたのだ。

 

 とりあえず、心に浮かんでいたのはたった一つ。

 

 

 

 ――もう二度とやらない。

 

 

 

 正直事件を追っている状況でなければ、家に帰って枕を濡らしたい。だって……すごい恥ずかしかったし。

 

「いい歌唱力だ。オペラでもやるかい?」  

 

 アクチェがはやしたててくるので、アイリスはうるっさいと言い返して、わざと肩をぶつけてやった。

 そうしてレストランを後にする。

 

 だから気づかなかった。

 アクチェがいぶかしげな視線を向けていることに。そして、何か答えを見つけたといわんばかりに得心していることに。

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