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The Tír na nÓg 〜ティル・ナ・ノーグ〜  作者: 佐藤つかさ
第二章 承
44/222

5-7

 私は何をしているのだろう。

 何度目かになる述懐を、アイリス・リベルテは心の中で繰り返していた。

 

 VIP用貴賓席を離れていくつか歩き回った後のこと。

 相変わらず衣装はパーティードレスのままだし、天馬騎士団の隊服はあの洋服棚に隠したままだ。何かあった時用に取っておくことにしたのだ。

 花をあしらった髪飾りがゆらゆら揺れるのは、アイリスがきょろきょろと辺りを見回しているからだ。

 

 ここはゲストを迎えるための野外レストランであり、アイリスはその一望を覗くことができる場所にいた。

 ここは歌姫用のステージであり、アイリスがその歌姫だからである。

 

「…………」

 

 人々の奇異の視線が痛い。

 隣にいるピアニストが何とも言えない表情を浮かべている。それはそうだろう。本来来るはずだった歌姫が欠席していて、いざ代打で駆け付けたのがこんな年端もいかぬ女の子なら。しかも緊張して今にも泣きそうであれば尚更だ。

 

 こうなったいきさつは、話せば実に単純だ。

 アクチェとこのレストランのオーナーが仲良しであった――今度は麻薬のやりとりはなかった――こと。

 本来レストランで素晴らしいパフォーマンスをするはずだった歌姫が、出会った貴族と恋に落ち、あまつさえ二人でランデブーしようなどと言ってプルミエールを出て行ってしまったこと。

 そして最後に。アクチェがアイリスを紹介して「この子、歌えますよ」などとみんなの前で言い放ちやがったことだ。

 

 歌姫の欠席に頭を抱えていたオーナーはここぞとばかりにアイリスを絶賛し、あれよあれよという間にステージに送り出されたというわけだ。

 

 そして今に至る。 

 何だろう。今なら世界中を呪える自信がある。とりあえず、舞台袖でニコニコしているアクチェの顔面にはあとでパンチする。絶対する。

 

 歌なんて夜に気楽に歌うくらいしかやったことがない。

 プロのように毎日歌ったりボイストレーニングをして磨いているわけではないのだ。

 

 とはいえ――アイリスは考える。

 嫌なことは長引かせても解決しない。解決法はたった一つ――終わらせることだ。

 

 すうと息を吸い、アイリスは覚悟を決めた。

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