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いきなり、笑い声がした。
近づいてきたのはいかにも貴族然とした男だった。立派な口ひげを生やし、被っている帽子にはこれでもかというくらい鳥の羽根が飾り付けられている。あとで聞いた話だが、貴族といういきものは服飾で富を見せびらかす限界を感じ、それで代わりに帽子を飾り立てることで「私、凄いでしょ?」とアピールしているらしい。こういう感性はイマイチよくわからない。
こちらに近づいてきたのでアイリスがぎょっとしていると、隣にいた少年が「ニコライじゃないか!」と嬉しそうに歓迎してくるので、彼の知り合いだとわかった。というか、こんな風に笑えるのかコイツ。
少年と貴族はお互いにハグをして、友好を確かめ合う。
「私があげた馬はまだ元気にしているかい?」
「すまないニコライ。あの馬は取引で譲ってしまったんだ。ほら、頭に“D”がつく侯爵に」
もったいない、と貴族は顔をしかめるが、怒っているわけではなさそうだ。
わりとよくある事なのかもしれない。
ひとしきり笑った後で、少年は息を落ち着けると、
「ところでニコライ。例の部屋は用意できてるかな?」
「勿論だ、来てくれ」
案内されたのは、天幕が張られた小部屋だった。
小部屋といっても、かなりスペースは広く取られている。正直な話アイリスの家より広い。
敷き詰められた高そうな絨毯に、焚かれた香の匂い。
30人集めてパーティーができそうだし、部屋の隅にはミニバーまで用意されている。明らかにVIP待遇の貴賓席だった。
「荷物も全部運んでいるかな?」
「言われたとおりに」
ありがとうと言いながら、少年はニコライという貴族に歩み寄る。
息すら届きそうな距離、彼は途端に声を潜めたではないか。
「友情の証だ。茶色は混ざってないよ」
こっそりと手渡すのは何かの袋だった。指先で押すたびに聞こえる音からたぶん中身は粉末状の何かだろう。だが間違いなく砂糖ではない。たぶん――
喜びながら部屋を出ていく貴族を見届けて、少年とアイリスの二人っきりになる。
その途端、アイリスは少年につかみかかっていた。
「今何渡した!?」
鬼気迫るアイリスの気迫を前に、少年はしれっとした態度でいけしゃあしゃあと、
「明らかに阿片だね」
「ハッキリ言うな!」
スピードボーリングだけはやめなよー、今はもういない貴族に大声で投げかけるものだから、殴ってやろうかと思った。本気で。




