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アイリス・リベルテは不機嫌だった。
まず、腰に巻いている矯正下着が苦しい。アクチェに言われてドレスに着替えたものの、背丈はともかく腰回りのサイズが合わず、やむを得ず体を服に合わせたのだ。おかげで腹部が圧迫されてひどく息苦しい。
あとハイヒールが歩きづらい。生まれたての小鹿みたいに足がかくつく。こんな状態ですっ転んだ日にはもう部屋に閉じこもって二度と出ない。たぶん。
一番不満なのはこの会場だ。
正面がレンガ造りの建物の前まで、びっしりと馬車の長い列が続いている。
必要以上に並べられたたいまつに照らされて、大勢の駐車係がその行列をさばいていた。
これはエリート、金持ち、そして有名人を引き付けるためのイベントなのだ。アイリスが今いるのは、その正面玄関である、
(こういうブルジョワジーって苦手だなぁ)
そう思いながら、アイリスは受け取ったグラスの中身を一気に飲み干した。
中身はノンアルコールの林檎ジュースである。ティル・ナ・ノーグは黄金林檎の名産地だ。食べ物であったり飲み物であったり、なにかしらに加工されたものがこの街には多く出回っている。
なにより美味である。
こんなところにターゲットがいるのだろうか?
係に招待状を渡して――アクチェが偽造した物らしい――正面玄関をくぐり、高くなったかかとを鳴らしながら会場に乗り込んでいく。
中央大広間には左右に垂れ幕がかかっていた。右には「プルミエール」のロゴ、左にはティルナノーグの国章が。
そして何より目立っていたのが、ある男の顔だった。
機織機で織られた男の肖像画。
アンドリュー・ボルガンディア。
それが今回のターゲットであった。




