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その宴は、プルミエールと呼ばれていた。
そこに月の光はほとんど届いていない。というのも街そのものが輝きに満ち溢れていたからである。
明るい町並みは、アーガトラム王国の中で最も活気にあふれた町であるという証であった。
幾度もの大戦の後、近代的な文化と貿易の中心地として再興した貿易都市ティル・ナ・ノーグは、長い時間をかけて、船を襲うクラーケンどもの恰好の的、襲ってくる怪物狩りに疲弊した騎士の吹き溜まりというネガティブイメージから脱却していた。
都市の北東部分は、領主や貴族達の居住エリアとなっている。
そこにはいくつもの店舗をひとつの広大なパークとしてまとめられた催しが行われていた。
古今東西の名だたる魔法使いが集まって商いを行う場所である。店舗に並べられているのは、ありとあらゆる魔力が込められた生地と装飾品。古から受け継がれた価値ある年代物もあれば、若い錬金術師によるこれまでの常識を打ち崩した新技術の結晶も並べられている。
それらを組み合わせた何百もの衣装がマネキンに飾られており、それらを一目見るために世界中の魔法使いと政府高官、国を買えるほどの財を蓄えた貴族、王族関係者が顔を見せていた。
ここはファッション業界の最先端。
お客様をもてなすために、あらゆる山海の珍味が並べられていたし、酒も用意されていた。
休憩室にはアンティークものの家具調度が運び込まれていて、指をはじくだけで極上のサービスが秒単位で提供される準備が整っていた。酒であれ馳走であれ――あるいは金で買える一時の愛さえも――ここでは何でも手に入った。
「ようこそ、ミス・リベルテ。さあ、こちらへ……」
男性に案内されて、アイリスはこの催しの為に華やかに飾られた広場へと入っていった。
金刺繍の絨毯と、そこかしこに蒔かれている薔薇の赤。
ここでの目的は買い物ではない。
目がくらむ煌めきと魔法と――むせ返る欲望にまみれたこの会場で、アイリスのやることはただ一つ。
人助けだ。
この場で唯一、娯楽とは縁遠い目的のために、アイリス・リベルテは宴へと足を踏み入れる。
その宴は、プルミエールと呼ばれていた。




