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「殺人事件に誘拐。死因は星の数ほどあるが、彼らには共通点はある。みんな自分が死ぬ未来を知らない」
物騒な話だが、近くの同僚――第十師団の騎士たち――に聞かれる心配はないだろう。
雨の音で、ある程度の声は掻き消えてしまうから。
「誰も未来は分からない」
かつて自分が投げかけられた言葉を包み、アイリスは言い返した。
殺人事件の場合、たいていの捜査は殺人のピーク時を過ぎてからでないと始められないという悲しい現実がある。そしてさらに悪いことに――悲しいことにこれはよくある話である――ひとたび捜査が始まっても騎士たちはさらなる死体が積みあがるのを待つしかない。それが現実だ。
だけど、彼はあえて現実をあざ笑う。
「もしも分かるなら?」
……こいつ今何と言った?
「僕にはリストがある」
少年はアイリスがつかんでいる肩を揺らして笑う。
そう、この世で唯一、彼には笑う資格がある。
だって彼こそがペルせフォネ・ガーランドの未来を変えた張本人なのだから。
「いつ人が死ぬかが記録されたリストだよ。彼らはみな死ぬか、誰かを殺す。どちらかはわからないけれど、72時間以内に確実に何かの事件に巻き込まれる」
アクチェに肩をつかまれ、アイリスの目が少年のそれとかち合う。
視線を縛られて、気づけばそのまま動けなくなっていた。
「リストに載っているみんなを助けるチャンスを、僕は君に提供できるんだ」
「…………」
アイリスは思案する。
精神の宮殿で考える。
やれるの?
人を助けることが。
お父さんがやってきたことを――私もまだ続けられる?
それは甘美な誘惑だった。
それは未来だった。
悩みの時。
宮殿の中で、扉を叩く音が聞こえる。
父の死。
目の前で食い殺された父。
もしそうなることを知っていたら?
あの時、その場にいたのが8歳ではなく17歳のアイリスだったら?
騎士として力を蓄えているアイリスだったら?
今よりももっと権限を持っているアイリスであったなら?
扉を叩く音がまだ聞こえる。
カーソン・ヴァルフレアなら引き受けるだろうか。
父なら――?
思い出す、父の言葉。
アイリス、この世には死よりも恐れるものがある。それはな――
気づく、扉を叩いているのは自分だと。外に出たがっているのは自分だと。
自分は人を助けられる――しかも殺人が起こる前に止められる――唯一無二の存在になれるのだ!
――私は出世したい。認められたい。
扉が、開く――
アイリスは、口を開いた。
「……次の事件は?」
その言葉に、少年もつられたように微笑み返した。
「保障しよう。アイリス・リベルテ。近い将来、キミはこの世界で名を轟かせる有名人になると、そして必ず出世するとね」
雨が止んだ。そんな気がした。




