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はらりるらりと雨零れる。
肌のぬくもりにぶつかるだけで、蒸気となって空に溶けてしまうほどの細な雫。
それでも湿った空気が港にあふれていた。
コンクリートの床を踏み鳴らす、何重ものブーツの音色。
歩を進めるは第十師団。召し捕った悪党に縄をかけて、己の城へと帰るのだ。
立てた襟で表情を――それと、若く整った顔立ちを――隠し、漆黒のコートと同じ色のベレー帽を頭にのせて。
アイリスは謹慎中なので、彼らから距離を置いて事の顛末を一部始終眺めていた。
そう、彼ら。
アイリスは第十師団に事のすべてを話してけしかけた。
悪に捕らえたのは彼らだ。
アジトを見つけたのも彼ら。
作戦を立案し、指揮を執り、直接手にかけたのも彼ら。
だけど、
だけど――
すべてのきっかけはアイリスの言葉だ。
「おい、あんた!」
不意に声をかけられる。アイリスに駆け寄ってきたのは角刈りの青年だった。
まだ若く、鍛え上げた肉体の持ち主であることが分かるが、まとっている空気はどこか軽い。
「あんただよな? 第十師団に通報してくれたのは? あ、自己紹介が遅れたな。副官のタケシ・コルコヴァだ。よろしく」
思わずアイリスは眉をひそめる。副官にしては若すぎる。どう見ても20代前半だ。
その考えが全部顔に出ていたのだろう、タケシに苦笑されてしまった。
「最近ベテラン勢がごっそり辞めちまったんでな。俺たち若手世代の昇進も早まった。それに加えてテロリストの捕縛とくれば、俺たちの経歴にもハクがつくってもんだ」
ここでアイリスに向き直り、手を差し伸べてくる。
見てみれば、タケシの表情から軽薄さが消え失せていた。
「部下を代表して感謝する。あんたが救ってくれたんだ」
恐る恐るアイリスは手を握る。
するとタケシはありがとな、と言って握り返してくれた。少し痛かった。
「じゃあな。豊漁祭でまた会えるかもな!」
そう言って、タケシはその場を立ち去って行った。
「…………」
アイリス・リベルテは、湿り気を帯びた手を軽く握る。
指の間がかすかに濡れる。見えないけれど、確かに感じる。それは達成感。
――嗚呼、やはり夢ではないのだ。
実感する。
私が未来を変えたのだと。
喜ばずにはいられない。握った拳に熱が宿る。たぶん心臓と同じ温度。
これは成功だ。これは証明だ。
私は――人を助けられるんだ!




