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その日、アイリス・リベルテはとある飲食店に足を踏み入れていた。
たいていの職場が昼休憩を入れている時間帯。労働の汗で乾いた喉を潤す水と、滋養のある珍味を求める人で溢れかえっているところだった。
テーブル一つ一つの下に敷かれた絨毯。木製の椅子には細かい模様が彫り込まれており、職人の技量が窺える。紅を基調とした天幕など、異国の情緒というのか、店舗全体がエキゾチックな雰囲気を漂わせていた。
ティルナノーグは加工業と貿易で栄えた街だ。成り上がる未来に胸を馳せて、はるか遠い大陸から訪れる移民は多い。
基本的におおらかな気風であり、こうした移民の文化もあっさりと受け入れているのだ。
店を飛び交う談笑も、公用語であったり、エルフ語であったり、別の大陸の聞いたこともない発音で話されていたり、正直鳥の泣き声にしか聞こえないものまである。
種族のサラダボール。それがティルナノーグなのだ。
そう、サラダボール。
レタスはレタス。トマトはトマト。決して混ざり合うことはない。
アイリスは黙々と料理を口に運ぶ。
注文した肉団子のスープ。ひとすくいして団子を口の中で転がして噛んでみる。思いのほか簡単に団子がほぐれたのと、あふれる肉汁の旨みに驚いた。おそらく肉を一度小さく切り分け潰してから丸めたのだろう。なかなか手間がかかっている。隠し味の胡椒も最高だ。調味料は高価だろうに。
出来ればもう少し肉団子を味わいたいのだが、今日は休憩に来たのではない。
意を決して、アイリスは手を挙げて店員に声をかけた。
「はい、何でございますか?」
まだ若い、ハーフエルフの給士が対応する。まだ新人なのだろうか動きが固い。
アイリスは笑顔で肉団子のスープを指差して、言った。
「これ、髪の毛が入ってる」




