表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
The Tír na nÓg 〜ティル・ナ・ノーグ〜  作者: 佐藤つかさ
第一章 起
14/222

2-3

「髪の毛、でございますか?」

 給士は困っている様子だった。そして恐る恐るスープを覗き込む。

「申し訳ございません。私にはその……確認できないのですが……」

「入ってるの」

 今にも消え入りそうな給士の声を一蹴して、自信と確信のある強い口調でアイリスは断言した。

 

「店長を呼んでくれる?」

 アイリスの言葉に給士は縮こまって、畏まりました、と頭を下げるや逃げるように厨房に飛び込んでいった。まるでライオンに追われるウサギのような逃げっぷりだ。

 

 ごめんなさい、とアイリスは給士に心の中で謝罪した。

 何故なら髪の毛なんて入っていないから。

 

 しばらくして、すぐに店長がやってきた。

 恰幅のいい髭面の中年男性。客寄せのためなのか、あるいは糸か何かで縛っているのだろうか、歯を剥いた力いっぱいの笑顔で表情を固定している。

 

 やっと・・・ターゲットが・・・・・・来た・・

 

「お客様、当店の品に異物があるとお伺いしたのですが」

「ええ。この肉団子のスープは店長自ら振る舞っていると聞きました」

「その通りでございます。(クアルン)の肉を私手ずから料理しております」


 年下のアイリスにへりくだっているのは、何も相手がお客様であるからではない。

 アイリスが身に着けているのが、街を守る天馬騎士団の制服だからである。市民は権力に弱い。

 

「ええ。貴方と話がしたかったんです。どうぞ座って」

 アイリスはテーブルの対面する席を、指を揃えた手で指した。

「いえ。とんでもございません」


 勤務中だからであろう。男はあくまで遠慮した。

 アイリスは、この男をどうしてやろうかと値踏みしながら、野菜をすり潰したジュースが入った容器を指でなぞった

 

「野菜ジュースですか。いかにも、女子力がお高い」

 

 この言葉にアイリスの頭の中で何かが弾けた。

 本人はおべっかのつもりかもしれないが、アイリスにとっては逆鱗だ。

 

「いかにも男臭い言葉ですね」

「は?」

「知ってます? 女の武器は涙。結婚は女の幸せ……。そういう言葉はたいてい男が作ってるんです」

 

 辛辣なアイリスの言葉に、店長は人のいい笑顔をひくつかせる。

 だが事実だ。その手の美化されたキャッチコピーには、おじさんの手前勝手な理想(押付け)が見え隠れする。

 

「名前は?」

「は?」

「お名前は?」

 

 まるで尋問のような物言いに、店長もさすがに態度が硬くなる。

 

「……アントニオ。アントニオ・ベネッティです」

「店員の名前は覚えてるんです?」

「ええ。血は繋がっていませんが、皆家族ですから」

 

 そうですか、とアイリスは一瞬だけ目を伏せて、そして再び店長の目を睨みつけた。

 

「それではこの名前は? オルタ・ファーガソン」

 思わず店長は仰天して目を剥いた。

 知っている名前だったからだ。

 それも先週クビにしたバイトであればなおの事。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ