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The Tír na nÓg 〜ティル・ナ・ノーグ〜  作者: 佐藤つかさ
第二章 承
101/222

8-5

「そういやァよ」

 

 不意にユリシーズが口を開いた。

 用が済んだので席を立とうとしたエドゥアルトを、ユリシーズが無理やり座らせた後のことだった。

 

「何だよ」

 

「まぁ聞けって」

 

 度数の高いアルコールをかなり胃に流し込んでいるというのに、ユリシーズにはまるで酔っている気配がない。

 それなりに付き合いが長いエドゥアルトだが、彼が酔いつぶれている姿を観たことがない。一度だって。


「俺様、養鶏家でバイトしたことがあるんだよ」

 

「……今、お前の隣で俺、鶏肉召し上がってんだけど?」

 

「――でな?」

 

「無視かよ」

 

「そこで食用鶏ブロイラーってやつを育ててたんだ。窓のない鶏小屋で、松明を絶えず炊き続けてた。明かりを絶やさなかったのは、飯を食わせ続けるためだ。それでも足りず、もっと太らせるために興奮剤まで注入してた。――この目で見たんだが、もう鶏とは言えねえ姿でよ。でも次々死んじまった。急激に成長させられてるから、心臓がもたねえんだ。でもやめなかった。死んだって一向にかまわないんだ。良いのが生き残れば万々歳」

 

「ものすごい遠回しに、俺にダイエットしろって言ってね?」

 

「そうじゃなくてよ。――周り見てどう思うっつってんだよ」

 

「周りだァ?」

 

 ユリシーズの言葉通りに、エドゥアルトは辺りを見回してみる。いるのはアンドリューが招待した沢山のゲストだ。

 業界人や、国すら買える金を有する大富豪。そして――魔法使い。

 

「このティル・ナ・ノーグじゃ魔法使いは増加傾向にある。あらゆるアイテムと英才教育を受けて、ぶくぶく太ってやがる。それでも足りずにプルミエールなんてイベントまでおっぱじめたんだ。お前の愛するティル・ナ・ノーグのど真ん中でだぜ? ……なぁエディ。あらゆる奇跡を意のままに操るこいつらは、果たして人間って言えるのか?」

 

 エドゥアルトはしばし考える。

 魔法使いは希少な存在だ。だがここ数年人口比率が増えている。しかも大多数はこのティル・ナ。ノーグでだ。

 しかも魔法使いは人種を問わない。エルフであろうと人間であろうと、何なら動物が魔法使いになったケースすらあるのだ。彼らがどのような力を持つのか、誰にもわからない。そのパターンはきっと魔法使いの数だけあるのだろう。

 

 そういう意味でなら、雑多な人種が入り混じったこの街は、魔法使いにとって理想的なモデルケースと言えるだろう。


 そう、だとしたら――

 

 エドゥアルトの中でとんでもない仮説が導き出される。

 

 

「ティル・ナ・ノーグは、妖精が作った養鶏場だって言いたいのか?」

 

 

 冗談だろとつぶやいたが、ユリシーズは笑わなかった。

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