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The Tír na nÓg 〜ティル・ナ・ノーグ〜  作者: 佐藤つかさ
第二章 承
100/222

8-4

 エドゥアルトは無数の資料を読み込んでいた。

 書類と毎日格闘している職業病ゆえか、速読には自信がある。

 

 ――苦情を申し立てた客への解決法マニュアルにはこうある。新しい商品を売りつけろ。

 ――温めてきたアイデアを意気揚々と売り込んだら、いつの間にか特許を取られていた。アンドリューがあるじであるとして。

 そうして巻き上げた売り上げの換算を収益報告書に記載している。要は収入を水増ししているのだ。

 株主や投資家はこの羊皮紙を見てこう思うに違いない。わあ、プルミエールは何て儲かるんだ。私たちにも一口噛ませてくれないか……。

 彼らにとっては数字こそが真実なのだ。

 

「経理担当を懐柔かいじゅうしたのか?」

 

 予想以上の収穫にエドゥアルトは感心していた。そしてユリシーズの答えは大変シンプルなものだった。

 

「そいつのカミさんとデートした」

 

「何つーことしてくれてんだ、お前……」

 

 

 エドゥアルトは呆れたように煙草の紫煙を吐き出した。

 この男にとってのデートとは、同じベッドの上で時間を共有したのと同じことである。

 誰もかれも己の欲望に忠実だ。だけど、人のものを()()()()()するほど飢えていない。

 

 漂ってくる煙草の煙を、ユリシーズはやぶ蚊でも払うように手で追い払っていた。普段こそ斜に構えた態度を取っている彼だが、こういうところは子供っぽい。

 

「あんたこそ、どういう風の吹き回しだ?」

 不意に真剣な口調でユリシーズが問う。顔をしかめているのは、煙草の臭いだけが原因ではない。

 

「……何の話か分かんねえな」

 今度はエドゥアルトがとぼける番だった。

 

「ざけんなよ、役人野郎ホワイトカラー。あんたは公僕だが騎士オマワリじゃねえ。街づくり課の課長サマが、アンドリューの悪事を暴くなんざ、お門違いもはなはだしいだろ」

 

「……ま、そう思うよなァ」

 困ったようにエドゥアルトは頭をざりがしとく。

 

「こう見えても俺、騎士と同じものを持ってるんだぜ?」

 

「ンだそりゃ? 元冒険者ギルドの役人さんが何持ってるって言うんだよ?」

 

 答えは、エドゥアルトの口から紡がれた。

 カウンターの前でうつむいて、未来をうれう男のかおで。

 

 

「この街を愛してる」

 

 

 その横顔に、ユリシーズは思わず黙らざるを得なくなった。

 そういえば、エドゥアルトはティル・ナ・ノーグ出身であることを思い出す。

 西の群島出身であるユリシーズと違い、この街で生まれこの街で育ち、今もここにいる。思い入れはさぞ強いだろう。

 

 勝手に酒を注文する。

 東の島国こと白花シラハナから取り寄せだ吟醸“雪花”。さすがはプルミエール。何でも手に入る。

 かなり高いはずだが構うことはない。エドゥアルトにおごらせる。資料を集めた手間賃てまちんだ。

 

 

 ふと気づいたことがあって、ユリシーズは隣の友人に話しかけた。

 

「……だったら、なんで俺様を呼んだんだ? 自分で忍び込めばよかったろ?」

 

「え? 俺ヤだよ面倒臭ェ」

 

「テメエ……」

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