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エドゥアルトは無数の資料を読み込んでいた。
書類と毎日格闘している職業病ゆえか、速読には自信がある。
――苦情を申し立てた客への解決法マニュアルにはこうある。新しい商品を売りつけろ。
――温めてきたアイデアを意気揚々と売り込んだら、いつの間にか特許を取られていた。アンドリューが主であるとして。
そうして巻き上げた売り上げの換算を収益報告書に記載している。要は収入を水増ししているのだ。
株主や投資家はこの羊皮紙を見てこう思うに違いない。わあ、プルミエールは何て儲かるんだ。私たちにも一口噛ませてくれないか……。
彼らにとっては数字こそが真実なのだ。
「経理担当を懐柔したのか?」
予想以上の収穫にエドゥアルトは感心していた。そしてユリシーズの答えは大変シンプルなものだった。
「そいつのカミさんとデートした」
「何つーことしてくれてんだ、お前……」
エドゥアルトは呆れたように煙草の紫煙を吐き出した。
この男にとってのデートとは、同じベッドの上で時間を共有したのと同じことである。
誰もかれも己の欲望に忠実だ。だけど、人のものをつまみ食いするほど飢えていない。
漂ってくる煙草の煙を、ユリシーズはやぶ蚊でも払うように手で追い払っていた。普段こそ斜に構えた態度を取っている彼だが、こういうところは子供っぽい。
「あんたこそ、どういう風の吹き回しだ?」
不意に真剣な口調でユリシーズが問う。顔をしかめているのは、煙草の臭いだけが原因ではない。
「……何の話か分かんねえな」
今度はエドゥアルトがとぼける番だった。
「ざけんなよ、役人野郎。あんたは公僕だが騎士じゃねえ。街づくり課の課長サマが、アンドリューの悪事を暴くなんざ、お門違いも甚だしいだろ」
「……ま、そう思うよなァ」
困ったようにエドゥアルトは頭をざりがしと掻く。
「こう見えても俺、騎士と同じものを持ってるんだぜ?」
「ンだそりゃ? 元冒険者ギルドの役人さんが何持ってるって言うんだよ?」
答えは、エドゥアルトの口から紡がれた。
カウンターの前でうつむいて、未来を憂う男の貌で。
「この街を愛してる」
その横顔に、ユリシーズは思わず黙らざるを得なくなった。
そういえば、エドゥアルトはティル・ナ・ノーグ出身であることを思い出す。
西の群島出身であるユリシーズと違い、この街で生まれこの街で育ち、今もここにいる。思い入れはさぞ強いだろう。
勝手に酒を注文する。
東の島国こと白花から取り寄せだ吟醸“雪花”。さすがはプルミエール。何でも手に入る。
かなり高いはずだが構うことはない。エドゥアルトに奢らせる。資料を集めた手間賃だ。
ふと気づいたことがあって、ユリシーズは隣の友人に話しかけた。
「……だったら、なんで俺様を呼んだんだ? 自分で忍び込めばよかったろ?」
「え? 俺ヤだよ面倒臭ェ」
「テメエ……」




