最終話 四十年後の後日談
お待たせしました。最終話となります。
といっても時間軸は少しずれ、タイトルの通り『四十年後』となっています。
『精霊姫の初恋』の終わりから続いているとお考えください。
「あー、今分かったよ、あの時崔のばあさんがすっげぇイライラしてた理由」
「……やはり勝手に連れ帰ったのはまずかったか」
四方は全く光源のない漆黒の暗闇。燃える焚き木の炎だけが安里とウーの姿を映し出している。花幻は寝入ってしまった焔火を膝枕して、自身もうとうとしている。
ここは安里たちの国から遥か西方の砂漠。見渡す限り続く砂の道をもう何日も歩き続けている。風の音がいやに耳に付く、乾燥の大地にぽつんと現れた小さな泉のほとりで今晩は野宿となった。
砂漠の夜は冷え込む。着込んでいるとは言え、やはり火は必須だ。ウーは細い棒で炎を突っついた。焚き木といっても燃えているのは木ではなく、砂漠に入る前に知り合った人から分けてもらった固形燃料だ。原料はいわずと知れた家畜の糞を乾燥させて固めたもの。
水も木もない砂漠を渡っていく旅は過酷そのもので、たった二人で旅をする安里たちをその人はひどく心配していろいろ持たせてくれたのだ。
明々と燃える火は本来なら焔火がいれば燃料すら必要ないのだが、彼は今あまり調子が良くない。何故だか原因は不明だが、力を調整することが難しくなっているらしい。花幻は弟分の焔火を心配して甲斐甲斐しく世話を焼いていて、その姿は安里にはとても微笑ましく思えた。
「崔のばあさん、強欲でなー。多分花幻を利用してアレコレさせようって腹だったんだろうよ。それが一気に丸崩れでイラついてたんだな。俺ちょうどその時期に藍翁訪ねて行ったからな、とばっちりだったのか、まったく」
安里は長い夜の慰めに、花幻を崔琳に預けたことを話していた。結局崔琳との約束の一月を待たずにたったの数日でこっそり花幻を連れ帰ってしまったことを。何を隠そうウーも崔琳とは知り合いで、しかも安里が知り合う前からお世話になっていたらしい。ウーは薬草には詳しくないので専ら使い走りとして走り回っていたのだが、その代わりに焔火を藍翁の元で修行させてもらったそうな。焔火がまだ生まれて年若いのに、急激に成長して人型をとれるようになったのは、藍翁の特訓の成果だったらしい。
「……しかし焔火の成長が藍翁の特訓の成果だったとはな。話によると藍翁は『腹黒の化け物じじい』らしいのだが、本当なのか?」
安里が炎をみながら思い出したように笑った。いつか飛飛が言っていたことだ。『おじいさんの皮を被った……』何と言っていただろうか?
その安里の言葉にウーは苦笑して、花幻の膝の上ですっかり寝入っている焔火を見た。
「ああ、えっと焔火いわくな、『会わなくていいならもう会いたくない』そうだ。相当しごかれたんだろうな。あの暢気な焔火がだぞ、必死な様子で俺に言うんだ、『もうやだ』って」
さすがにあの時は可哀想かなって思ったけど、と言ってウーは笑った。可哀想だとは思ったが、逃げてきた焔火を藍翁が全開の笑顔で連れ戻しにやってきて、その背後に渦巻く黒い気配に押されてとても『もういいです』とは言えなかったのだ。
乾いた笑いで何十年も前のことを回想したウーは、ふと疑問が湧いて安里に視線をやった。
「そういやさ、花幻を預けてる間って、安里はひとりだったのか?」
もっともな疑問である。男ならともかく女の子がひとりなんて無用心だし、まして当時の安里は銀髪を隠すこともできずに山に引きこもっていたはずだ。危険が多すぎる。
「いや、あの時は……」
安里があの大変に手のかかる少女と、金色の豪気な精霊を思い出していると、突然明後日の方向から声が聞こえてきた。……噂をすれば、というやつだ。
真っ暗闇の中に浮かび上がる光。静まり返った砂漠に響く涼やかなその声の持ち主は。
「お久しぶりー! 飛飛のお帰りよっ!」
小さな渦を巻くように風を纏って現れたのは、安里がかつて短い時間を共に過ごした風の大精霊、飛飛だった。今も変わらない美貌に輝くような金の髪。大きな金の瞳が安里を捉え、さらに大きく見開かれる。
「あら! アンリ? アンリじゃないっ!? やだー変わってないのねやっぱり! 相変わらず可愛いわぁ!」
そういうが早いか、飛飛は安里をぎゅっと抱きしめた。飛飛の格好はどこの国の衣装なのだろうか、ゆったりとしていてなんだか露出が多く、安里は顔を赤くして圧迫して来る胸から逃げようと身をよじった。
「おい、飛飛! ちょっと離してくれ、苦しい!」
やっとの思いで安里がそう叫ぶと、飛飛は残念そうに安里を離した。そして口を尖らせて言う。
「えー、せっかくまた会えたのに! つれないのねぇ、アンリ。あたし、もちろん何度もアンリに会いに行こうと思ってたのよ? けどね……」
そこで言葉を区切って、飛飛はぐりんと首を回してウーを見た。見開いたままの金の瞳が怖くて、ウーは座ったままで後ずさる。
「ウー……あなたのせいだって分かってるわよね……? あっち行ってきて、その後こっちにもって、よくも振り回してくれたわね! うっかり五十年も経っちゃったじゃない!!」
「……あ、えっと、四十年だ、飛飛」
いきなりの飛飛の剣幕に、少しでも自分の非を減らそうとウーは小声で反論した。……しかしその一言は怒れる精霊にとっては逆効果だった。
「あ・た・し・は、そんなことを言ってるんじゃ、な・い・の!!!」
ふーとウーを威嚇する飛飛を見て、安里は目を瞬かせた。確かに飛飛と別れたとき、飛飛は焔火を連れてウーの元へ行ったのだし、知り合いになってもおかしくない状況だったが、まさかこんなにも気安い関係になっていたとは想像もしていなかったのだ。
「……ウーと飛飛がこんなに仲良しだったとは、知らなかったなぁ……」
素直にぽつりと零すと、飛飛が今度は安里に向かって勢いよく声を出した。
「仲良し!? そんな関係じゃないのよ!!」
至近距離で飛飛に詰め寄られて、安里はこっそりと後ずさった。なんだか飛飛の勢いが以前に比べて随分増しているなあと胸の中でこっそり思う。確かに知り合ったときもかなり……賑やかではあったが、数十年で更にその元気のよさが増している。人間であれば年をとるにつれて、体の不調も出るし元気がなくなっていくのが仕方のないことだが、肉体を持たない精霊には、過ぎ去っていく年月は全く関係のないことらしい。
「いい? アンリ。あなたの幼馴染ってねぇ、すっごく人使い荒いのよ! あたしが力持ってるって一発で見抜いて、『ちょっと頼みがあるんだけど』って言われてどこへ行かされたと思う?」
息を吐いて少し落ち着いた様子の飛飛が、安里の隣にどさりと腰を下ろしてウーの存在を無視するように話し始めた。ウーは火の対面から所在無さ気に燃料をつついている。不安そうにちらちらと安里のほうを見遣りながら。
「北よ、北! ここからずーっと北の方、氷に閉ざされた国! ってゆうかあんなところに人が住んでたっていうことも驚きだったけど、そこへ行って不老不死の手がかりを探してきてくれって」
その言葉に安里はがっくりと首をたれた。まさかそんなことを飛飛に頼んでいたとは。ウーが慌てたように安里に弁解しようとするのを飛飛が眼力で押しとどめたのを、下を向いていた安里は知らない。
「そりゃね、寒いところだもん。人間にはきついと思うわよ。それであたし行ってあげたの。ああ、まったくあたしってお人よしだわ。安里の幼馴染だからって気を許したのが間違っていたのかもね」
ずけずけと言い放たれる飛飛の言葉に、ウーは沈黙して縮こまる。安里は半眼でウーを見遣ってため息をついた。本当に、手段を選ばないというか、考えなしというか……。
「で? 他にはどこに行ってきたんだ、飛飛?」
こうなったら全部聞き出して、ウーにはお仕置きしなければと安里は思った。飛飛は嬉々として語る。
「えっとねぇ、北でしょー、その後は間逆の南へ。島がいっぱいあったけどほとんど海だったわ。それから東へ。あ、そうそうついでに報告しとくわね、ウー。ここから東の方向にずーっとずーっと海を越えて行ったところね、大きな大陸があったんだけど、人は住んでいなかったわ。それで仕方がないからそこから更に海を渡ったら、またひとつ大きな大陸にでて」
飛飛はそこで一息ついた。安里としては何だか壮大な話にちょっとついていけない。ウーは珍しく真剣な表情で聞き入っている。
「……でもそこは結果的にはこの国と地続きだったの。西に西に行けば着く所よ」
飛飛の細い指が、正確に西の方角を指した。この砂漠の遥か向こうの世界を飛飛は見てきたのだ。そう思うと、安里にも少し理解できた。
小さな火が三人の表情を映し出す、静かな静かな夜。飛飛がこんなに騒いでいるというのに焔火は寝入ったままだ。花幻はうとうとしていたのだが今は恐らく目を覚ましている。黙って気配を消しているが、飛飛ほどの強い精霊の気配に気が付いていないはずはない。
飛飛はウーに向き直って、残念そうな申し訳なさそうな様子で再び口を開いた。
「……いろいろ調べてみたけど、残念ながら不老不死になりたい人間はわんさかいても、実際そうなった人はいないみたい。面白かったのは“魔女”かしらね。あの人たちは面白い術を使うわ。寿命を長くする方法は知っていたわよ、それは聞いてきたから試してみたら?」
飛飛は最後だけ面白そうに言って首を竦めた。今回も大した収穫はなかった、そういって話を締めくくった。
「ああ、ありがとう飛飛。助かったよ、いつもありがとう本当に」
ウーは静かに笑ってそういった。飛飛は苦笑して首をふった。
少し落胆しながらいつも、丁寧にお礼を言ってくれるから、自分はきっと断れずに三度も長い旅に出てしまったのかもしれないと飛飛は自己分析した。
確かにウーの“お願い”のせいで、自分は長いこと安里に会えなかったが、でも会えないと分かっていて飛飛は旅に出たのだ。安里と、飛飛自身も大切に思っている安里と、共に生きたいと願うウーの真摯さに心を動かされて。
そんなウーと飛飛の様子をみて、安里はウーを罵る言葉を飲み込んだ。
ウーが一生懸命になるのは自分自身のためであり、かつ安里をひとりにしないためだ。そしてそんなウーに飛飛が協力するのも、同じ理由。全てが安里のためだと分かっていて、もうウーに何かを言うことなどできない。
安里はため息をついて、苦し紛れにこう言った。
「……とにかくだ、ウー。もう飛飛を遠くへ行かせるのはダメだ。飛飛はお前の精霊でもないんだし」
夜に溶けるような低い声で呟かれた言葉に、ウーは神妙な顔でこくりと頷いた。
「……ああ、分かった」
その素直な返事に安里は何だか居た堪れなくなってごぞごぞと身じろぎした。肩に掛けていた厚手の布を引っ張り、すっぽりと包まる。
そんな安里をじっと見ていた飛飛が、ふと思いついたように言う。
「ねぇ、今気が付いたんだけど、なんでこんな砂漠にいるの? まさか旅の途中とか?」
「……そのまさかだが……。どうした、飛飛?」
火の周りに置かれた大きな荷物を見、そして周囲を見渡してキョロキョロする飛飛に、安里は首を傾げた。飛飛はしばらく何かを考えている様子だったが、安里とウーを見てにやっと笑い宣言した。
「じゃぁせっかく再会できたから、今度は安里についていくとするわ! この先の様子だって知ってるし、あたし役に立つわよ~」
「だ、ダメですわ! 私がいるのですから、風の精霊は十分足りてますの! しっし、ですわ!」
飛飛の言葉に猛烈な反応を示し、大声を上げたのは他でもない花幻だった。それまでじっと黙って様子を伺っていた彼女だったが、飛飛が旅の道連れになることはどうしても許せないらしい。寄ってきた動物を払う人間の仕草を真似て、飛飛を寄せ付けないように威嚇している。
「……飛飛、花幻……お前ら、予想はしてたけどやっぱ仲悪いんだな」
ウーがぼそっと呟いた言葉に、安里は同意の意を込めてため息をついた。花幻の飛飛に対する対抗心は半端なものではない。自分より強い、しかも同属性というのが気に入らないのだろう。少しは大人になったのかと思っていたが、数十年程度の時間では、花幻の精神年齢を上げるには至らなかったらしい。
「花幻ちゃーん、そうね、確かに風の精霊は足りてるけど~。“大精霊”が足りていないと思うわぁ。この先もっと過酷なのよ~つらいのはあなたじゃなくってご主人様のアンリなのよ~? たくさん精霊がいたほうが、アンリをもっと守れるって思わない?」
大精霊の貫禄たっぷりに言われた飛飛の言葉に、花幻は頬を膨らまして黙り込んだ。やはり安里のことを持ち出されると弱い。どんな危険が待つか分からない過酷な旅なのは花幻も分かっている、安里を助ける手は多い方がいいことも。
「俺はどっちでもいいけどなぁ~。まぁ好きなだけ喧嘩してくれ、俺は寝る」
最初は面白がって花幻と飛飛の言い争いを聞いていたウーだったが、早々に飽きたらしい。ごろりと背を向けて寝転がってしまった。それを見て花幻は苛立ちの矛先を変え、横向けに寝ているウーの背中を殴った。
「紅武!! 元はといえばあなたがこの飛飛に仕事を頼んだせいでこうしてここで会ってしまったのですわよ! 勝手に寝るなんて許せませんわ!」
ボコボコと小さなこぶしで殴りかかって来る花幻もなんのその、ウーはわざとらしく高いびきをかいて寝ている風を装っている。あの様子ではそのうち本当に寝てしまうのだろうな、と安里はくすりと笑った。
「おーい、アンリ、アンリは反対しないよね? 一緒に行ってもいいでしょ?」
喧嘩相手がウーに移って、解放された飛飛は、安里に向かってにかっと笑った。しかし安里は苦笑して答えを濁した。
「そうだな、花幻を説得できたらいいぞ。花幻が一緒に行ってもいいというならいい」
にやっと笑った安里の目線の先では、本当にそのまま寝てしまったウーを花幻が起こそうと必死に体を揺すっていた。「何でこの騒ぎの中眠れるのですかっ!?」と叫ぶ声に安里と飛飛は顔を見合わせて笑った。
「安里様っ! まさか飛飛を一緒に連れて行くとはおっしゃいませんよね!? そうなったら私……」
花幻はウーを起こすのを諦め、懇願の瞳で安里に詰め寄ってきた。隣にいる飛飛を威嚇するのを忘れずに。大きな茶色の瞳に下から見上げられた安里は、にっこり笑って花幻に告げた。
時に安里は非情になる。自分を溺愛しすぎる気のある守護精霊に対して。
「うん、全部花幻に任せるぞ。よーく飛飛と話し合って、この先の様子を聞いてみたらいい。その上でもし飛飛の助けが必要なら、その時は花幻の判断を私は尊重するよ」
花幻が飛飛に嫉妬するのも全て安里に対する深い感情故であり、その逆を返せば花幻は安里を決して危険な目に合わせないように行動してくれる。この数日間で砂漠の旅の過酷さが身に染みて少しずつ疲れが溜まってきていた安里は、花幻が自分をずっと心配していたのを知っている。
安里の気持ちとしては飛飛がいると旅が楽しくなるかなといった程度の軽いものとして一緒に来てほしいと思っているのだが、安里が決めてしまうより半分くらい強制的であっても花幻が自分で選ぶ形にした方がきっと納得できるだろうと考えた。そうでなければたとえ飛飛が一緒に来たとしても喧嘩ばかりになってしまって困るだろう。
安里の言葉を聞いて、花幻は目を見開いたまま首をめぐらして飛飛を見た。何だか形容しがたい必死な表情の花幻に対して、飛飛は余裕の笑顔を浮かべている。
夜の間中は続きそうな精霊ふたりの論争に付き合うのも疲れると、安里もウーに習ってごろりと横になった。夜明けはまだ遠い。どこまでも広がる黒の中に零れそうな星星が瞬いている。
びゅう、と遮るもののない風が吹いてきて、砂を巻き上げた。顔に当たる粒が痛くて、安里は起き上がった。そしてウーを見てすかさず、風除けにしようと決める。
のそりと移動してウーに隠れるように横になると、眠っていたはずのウーが寝返りを打って安里のほうを向き、小声で話しかけてきた。
「……なぁ、安里。俺はやっぱり、諦められないんだよ」
背中を向けた安里を抱きかかえるような格好になったウーは、安里の耳元で囁く。その掠れるような声に、安里は一瞬ぞくっとしたが無反応を装った。
「……どこに、いけば、いいんだろうなぁ……。このまま死にたくない、なぁ……」
そうして安里を抱きかかえたまま、ウーはまた寝入ってしまった。
安里は黙ったまま、ウーから離れようと体を動かしたが、重たい腕が邪魔をして動けない。足元もいつの間にかウーの両足の間にがっちりと挟まれてしまっている。
はぁ、と安里はため息を付いて動くのを諦めた。これはこれで暖かいし、いいか、と思った安里に、普段なら苦言を呈するだろう花幻は、目下飛飛との言い争いならぬ協議中だ。一緒に旅についていくのはもう認め、それならばその間、安里に必要以上に近づかないといった決まりを作ろうと躍起になっている。
安里はウーに包まれて、砂漠の一夜が明けるのを待つ。
ウーにまだ告げていない真実がある。
四十年前、紅葉によってもたらされた安里の“不老不死”の真実、それは、“神”の力によって肉体の“時間”が止められた状態であるということを。
安里の体は“老いない”のではない。時間が止まっているからこそ姿が変わらず、傷が付いてもすぐに“元に戻ろうとする”のだ。体に毒が入って中から侵されようと、体はすぐに“元に戻る”反応を起こす。あの、“神”の力に触れた十六歳の体へ。
安里と同じように不死になりたいと願うウーに、安里はかける言葉を持たなかった。この事実を告げても、どうにかなるわけでもない。ただ、人間の手の届かない遥かな世界の住人と、安里が関わってしまっただけのことだ。不死の薬の調合法が書かれた秘伝の書は、安里の一件のあと、里の大人たちによって焼かれてしまったとウーは言っていた。“神”はもう現れない。
安里は横になったまま、自らの銀の髪を一房、そっと摘んで眺めた。別に髪や目の色はそのままにしておいてくれてもよかったのにと思うのだが、神の考えることなど到底わからない。髪から手を離せば、するりと落ちていく瞬間にも自ら光を放つように輝く銀。
「うーん」とか呟きながらウーが身じろぎして、更に安里をきつく抱きしめた。すぐ傍で耳をくすぐるように繰り返されるウーの寝息の、その安らかな気配に安里は胸が縮むみたいに苦しくなって、きゅっと身を竦め瞼を閉じた。
……ああ、ウーよ。私こそ、わからないんだ。この先、一体どこへ行けばいいのか。
ウーの運命も、安里のこの先も、何一つ分からない。ただ、安里はこの背中から包んでくれている温もりがいつの日かなくなってしまうことを知っている。つい数ヶ月前、蒼潤を失くしたあの儚い一瞬のように、いつか。
それはきっとウーがどれだけ願おうとも、安里がどれだけ惜しもうとも、変えられない運命。全ての人間が、全ての生き物が背負った悲しい運命。
……蒼潤は死んだ。
ウー、いつかは、お前も。私を置いて……
安里の閉じられた瞳からすっと水滴が零れ、乾ききった砂の大地に吸い込まれ消えていった。
ここまで『秋の訪れに吹く風は』をお読みくださりありがとうございました。
あまり進展のないシリーズ二作目となり(苦笑)面白みもなかったかもしれません。
この先また少しずつ明らかになっていく安里の抱える秘密とウーの運命に期待していただければと思います。
次回作の構想はまだ妄想段階ですので、またお待たせすることになるかと思いますが、頑張って書いていきますので、どうぞよろしくお願いします。
皆様の応援がこの上ない励みとなります。このキャラのこういう話が読みたい、などのリクエストがあれば歓喜の舞を舞ってがんばりますので、何かありましたらひと言お寄せください。
拙い作品ではありますが、これからもどうぞよろしくお願いいたします。ありがとうございました。
蔡鷹娟