第14話 マリア・マドレーヌの仕事
「予想以上ですね」
私は報告書を読みながら言った。
「はい。特に鉱山からの問い合わせが多くございました」
薬草商品の販売先を変える試みは、想像していたより早く結果が出た。王都へ運ぶ量を減らし、産地に近い地域へ試験的に卸した。療養院。共同浴場。鉱山。宿。最初から大量に売ったわけではない。まず少量。反応を見る。売れなければ戻す。それだけだった。
「鉱夫の方々は、飲むより湯に入れる方が多いそうです」
「では、今の袋では小さすぎますね」
「はい」
「大袋を作りましょう。袋ごと湯に入れて使えるようにすれば、手間もかかりません。包装も簡単なものでいいです。見栄えより値段を下げた方がいいでしょう」
担当者が書き留める。
「療養院は?」
「継続して購入したいとのことです。ただ、毎回注文するのではなく、一定量を定期的に届けてほしいと」
「では、その条件で費用を出してください」
担当者が書き留め、次の資料をめくった。
「それから、街道沿いの宿からも追加の注文がありました。食堂で薬草茶を出したところ、旅人の方々に好評だったそうです」
「それはよかったです」
宿からも追加の注文が入ったのは嬉しい知らせだった。旅人に気に入ってもらえれば、ほかの宿にも広がるかもしれない。
「ただ、毎回小さな袋を開けるのが手間だという話もありまして」
「では、宿向けにも大袋を用意しましょう」
「鉱山向けと同じものでよろしいでしょうか?」
「いいえ。鉱山向けは袋ごと湯に入れるものです。宿向けは必要な量だけ取り出せるようにしましょう」
担当者が頷き、内容を書き留める。
同じ薬草でも、入浴用と飲用では使い方が違う。袋を大きくするだけでは、かえって扱いにくくなってしまう。
「それと、一日に使う量と宿泊客の人数も確認してください」
「そこまで調べるのですか?」
「はい。評判がよくても、宿の負担が大きければ続けてもらえませんから」
売れた数だけではなく、どのように使われているのかも大切だった。
「承知しました」
担当者が一礼し、部屋を出ていこうとして、ふと足を止めた。
「申し上げるのを忘れておりました。現地の支配人から、お嬢様にお礼をお伝えしてほしいと」
「私に?」
「この商品は売上こそあったものの、利益が少なく、いずれ取り扱いを縮小されるのではないかと心配していたそうです。今回の変更で利益が出るようになり、続けられそうだと」
「そうですか」
「ありがとうございました。それでは、失礼いたします」
担当者が出ていったあと、私は一人で帳簿を見直した。
王都へ送る商品の量を減らしたため、売上は少し落ちた。だが、運送費と王都での保管料は、それ以上に減っている。
まだ試験段階ではある。それでも、数字ははっきりと改善していた。このまま続ければ、利益はさらに伸ばせるかもしれない。少なくとも、売る場所を変えるという判断は間違っていなかった。
面白い。
数字を追う。理由を探す。実際に人へ聞く。仮説を立てる。試してみる。結果が違えば、また考える。
昔から帳簿を見ることは嫌いではなかった。ワポーレ家でも、どうすれば立て直せるのかを考え、いくつもの案を出してきた。
けれど、あの頃はそれが好きだからやっているのだとは思っていなかった。今になって、ようやく気づいた。
私は、こういう仕事が好きなのだ。
扉が叩かれた。
「どうぞ」
入ってきたのは父だった。
「どうだ?」
「今のところは順調です」
「そうか」
父が向かいへ座る。私はまとめた数字を見せた。
「王都への出荷を減らしたことで、売上は多少落ちました。ただ、輸送費と保管料は、それ以上に削減できています」
「利益は?」
「まだ確定ではありませんが、以前よりかなり残ると思います」
父はしばらく資料に目を落としていた。
「なるほど。引き続き任せる」
父は資料を閉じた。
「楽しそうだな」
顔を上げる。
「そう見えますか?」
「ああ」
私は少しだけ困って、手元の資料へ視線を戻した。
「仕事が好きなんだな」
その言葉に、今度はすぐに答えられた。
「はい」
父は何も言わなかった。ただ、少しだけ嬉しそうに見えた。




