86/131
-1
ルチアの気分を映すような厚い雲が覆ったその日、今日は1カ月に1度訪れるミリウスとの顔合わせの日だった。
いつものように一杯の紅茶を飲むだけの時間…のはずが、その日は違った。
「俺は、あの方を選ぶべきだと思う」
それは周囲の使用人たちを人払いした後に告げた、彼からの言葉だった。
「…え?」
「君は俺なんかよりも、あの方に幸せにしてもらう方がいい」
ここ何回もほとんど形式的な挨拶しかしなかった彼が、突然そう告げてきたのである。
「君と隣国の大層なお方との関係を聞いたんだ。俺は君たちの関係を支持したい」
「何を…」
ルチアは驚いてしまい、かたんとティーカップを傾けてしまう。テーブルにゆっくりと紅茶の染みが広がっていく中、ミリウスは話を続けた。
「彼は君の横に並んでも相応しい美男子だ。…俺なんかよりもずっとね。分かるだろう?それに、俺はきっと君を幸せにできないよ」
彼は空っぽになったティーカップを机に置くと、まっすぐにルチアの瞳を見つめてくる。
今までは視線が合わなかった彼と、今日初めて視線を交わすことになった。
「これは俺からの願いでもある。こんな酷い男ではなく、君に優しくしてくれたあの方を選んで欲しい」
彼がそう頭を下げて告げる言葉に、ルチアは何も言葉が出なかった。




