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その日、シリルは学園での課題が残っているからと泣く泣く先に王都へと戻り、珍しくデリックと2人きりの夕食だった。
そんな夕食時、デリックは「最近騒がしくしていてごめん」と口にする。
「あいつは色々と面白い話を知ってるし、姉さんの気分転換になれば…と思ってたんだけど、まさか求婚してくるだなんて思わなくて」
デリックの言葉にルチアが苦笑いで返すと、彼は本当に思いつめたように食事の手を止めた。
「姉さん、こんなことをいうのはおかしいかもしれないけれど、あいつは第2王子だし、国に既に決められた婚約者もいるんだ。だから…」
「えぇ、あの人の求婚を本気にしていないわ」
ルチアはそうしてワイングラスを手に取る。今日のワインはいつもと違ってどこか苦みを感じるワインであり、飲み終えたあともすっきりしない味だった。
そうきっと…ルチアが執事に伝えれば、今後はこの食卓に乗ることはないだろう。
(いつもの商人が高級ワインと言って持ってきたけど、私の口に合わなかったわ)
ルチアはそうして、飲むでもなくワイングラスの中でワインをぐるぐると回していく。
このワインはまるで、自分の様なのだ。
高価なだけで、まずくて魅力もないワイン。それが自分であり、輝かしい食卓には相応しくないものだと理解できる。
いくら相手が隣国の第2王子であろうと、隣国のそれも既に婚約者がいる自分が彼と結ばれるだなんておかしな話だ。なにより、彼の兄が王位に就くというめでたい時期に、おかしな噂が流れるようなことが許されるわけがない。
「あの人をもう連れて来ないで」
ルチアの言葉にデリックが頷く。会話はそこで終了した。
そうして、ルチアの日々は元通りになった。何度も届くシリルからの手紙は中身を開けないままデリックから彼へと返却してもらい、静かな日常が戻ってくる。
彼と出会う前の日常へ、少しずつ全てが戻っていた。




