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「さ、戻りましょうか」
ジュールの傷に関しては見た目ほど深く付けられた傷ではなかったらしく、綺麗に血を拭いてもらった後は消毒だけで済んだようだった。それでも、やせ細った彼が首に包帯を巻いている姿は凄く痛々しく思えて、きっとこんな姿なら余計にシスターたちの興味を惹くだろうと感じてしまったディーナ。
一方で、ディーナが元居た聖堂に戻ろうと足を進めた時、引き止めてきたのはジュールの方だった。
「一緒に船に乗っていたあの男は…神父?協力者なのか?」
「えぇ、最近うちの近くの教会にやってきた人で、色々あって手伝ってもらっていたの」
「そうか…」
何か続きを言いたそうにしながらも、言い出せずにいる彼を見てディーナは少しだけ胸が満たされたように思えた。シスターたちに向けていた嫉妬が些細なものに思えるほど、今の彼は自分1人に振り回されているのだと実感する。
ディーナはそんなジュールへと向き合うと、まっすぐと彼の瞳を見つめた。
「10年って意外に長いでしょう?契約結婚から始まったとしても、相手が他の異性と2人きりで過ごすだけで心が苦しくなるの」
そんな言葉に、ジュールがピクリと肩を反応させたのが分かる。彼から申し訳なさそうに向けられた視線に、ディーナはにっこりと笑みで返す。
「…ねぇ旦那様、あなたにもあの時の私と同じ気持ちがわかったかしら?」
そうして、いつかのように「旦那様」とジュールの名を呼ぶと、彼は視線を下に向けたまま小さく頷いたのが分かった。ズズッ…と小さな鼻音が聞こえることからも、隠すようにして泣いているのだろう。
ディーナはそんな姿がどうしても愛おしく思えて、彼へと抱きつくことにする。
「…だから、別れるだなんて言わないで」
少しでも明るく振舞っていたものの、やっぱりそんな言葉を口にする瞬間は怖くて震えてしまう。
それでも、ディーナに応えるようにしてジュールが抱きしめる力を強くしてくれたのが分かって、ディーナは胸がいっぱいになるのだった。




