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「お母さま。お父様はどこにいったの?」


それはディーナが子供たちとお茶をしているときだった。8歳と5歳になる息子たちはついさっき、屋敷を出ていった馬車の音を聞いたのだろう。最後の顔合わせになるであろうにも関わらずディーナはわざと子供たちを連れ出しており、父親とは顔を合わせないように仕組んでいた。



「それがね、お父様は病気になってしまったから別荘でゆっくりお休みすることになったの。大丈夫よ、ちゃんとお医者様も一緒だからね」


下の子の問いかけにそう返答するディーナだったが、8歳になる上の子はある程度、事情を理解しているのか静かな視線をディーナに向けてくる。



「中庭で読書をしているときに落ちてきた指輪は拾っています。…母様、この指輪は家に代々伝わるものじゃないですか?」

「そうなんだけどね。私の指のサイズにも合ってないし、飾りも重すぎるんですもの」


指輪を拾ったようでハンカチに包んで差し出そうとしてきた長男だったが、ディーナの返答にくすっと笑った後、指輪をそのまま自分のポケットにしまうことにする。



「確かに、この指輪はごつごつしていて、僕も頭を撫でられる時に邪魔でした」

「お母様の指輪取っちゃうの?なら、僕たちで綺麗な宝石の指輪を選んであげるよ」

「あら、じゃぁ今日の午後のバイオリンのレッスンはお休みして、一緒に指輪を選びましょうか?」



可愛い2人の息子たちの笑顔を見ながら、きっと自分の選択は間違いじゃなかったと感じるディーナ。ディーナ自身、政略結婚としてこの屋敷に嫁いだ後から領地に関する殆どの仕事と管理、そして事業の立ち上げまでなんでも1人でこなしてきた。


夫であるジュールは家の顔としての役目は果たしてくれたものの、実際彼がいなくなったことでディーナにとって苦労することはなにもない。むしろ、病気だと早速噂を広げたのだから、領地で愛人と仲良くなってくれているほうが都合が良いほどである。





(別荘までの楽しい旅行気分をたっぷり味わえばいいわ。使用人も家具も全て引き払って、今はもう誰も管理していないあの別荘で2人で過ごせばきっと愛も深まるはずでしょう?)


ディーナはそうして気分よく、ワインを口にするのだった。




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