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それから数日が経ったある日のこと、ディーナはジュールの部屋まで向かうとドアをノックする。中から聞こえた楽しそうな笑い声はノックの音ですぐに止み、ドアから覗いてきたのは明らかに不機嫌そうにするジュールの姿だった。


「なんだ、君か」

「少しお話をよろしいですか?」

「後にしてくれないか?今は少し取り込んでててな」


乱れた服を直すような仕草をしながら話すジュールを見て、ディーナはいつものように彼の身支度を手伝う。袖のボタンが自分では留められないのも、ネクタイが綺麗な形にならないのも、ここ10年以上の夫婦生活で慣れ切っていたことだった。



「っ…すまない」


気まずそうに視線を揺らすジュールを見ると、いっそこのままネクタイを強く締め付けてしまいたい衝動が沸き上がるものの、ディーナは今はそんな感情を全て心の奥にしまい込む。



「前に目を付けていた別荘が手に入りました」

「まさか。あの頑固な老人を納得させたのか?」

「えぇ、ワイン畑のある領地を一部お譲りする提案をしたら、すぐに首を縦に振っていただきました」


そんなディーナの言葉に興奮した様子で「よくやった!!」と目を輝かせるジュール。すると、自分1人が取り残されたことがつまらないのか、甘えたような声でジュールの名前を呼ぶベルが部屋から覗いてくる。きっと乱れたままドレスはわざとであり、胸元にあるキスマークをディーナに見せつけようとしているのだろう。


慌てた様子のジュールがベルを隠そうとするものの、ディーナは特に気にした様子はなく、ベルに対しても笑みを向けて話を続けた。



「それで、折角ならお2人でどうかと思って提案にきたのです。あのお屋敷なら、体調を崩しているベルの休養にもぴったりでしょう?」


そうしてディーナが鍵を差し出すと、ベルがすぐさまディーナから鍵を取り上げてはしゃぎだす。



「本当!?本当に、いいの!?私、貴族たちのように別荘で過ごすのが夢だったの!!ありがとう、ジュール!!」


はしゃぐようして喜んだベルは、ジュールに抱きつき感謝を述べる。その際、ディーナのことを無視するようにして振舞うベルの姿が気になったものの、ディーナは変わらず口元の笑みを崩すことはなかった。



「もちろん、このまますぐにでも出発して構いませんよ?道中には有名な観光地もありますし、折角ならお買い物をして向かえば楽しめますでしょう?」


そう話したディーナは金貨の入っている財布をジュールの胸元にしまう。ベルが嫉妬するようにこちらを見る視線は無視して、わざと彼の胸元をポンと叩いたディーナ。しかし、このころにはもうジュールの顔色は段々と青く変わっていた。



「あ、…いや、ディーナ…その…君は…」

「いってらっしゃいませ、旦那様」


そう言って小さく手を振り、呼び止めるようなジュールの言葉を無視してその場を去るディーナ。きっと彼は10年の結婚生活の中で気づいているはずだ。


まるでお客様を相手にするように作った笑みを向けてくるのも、ジュールのことを「旦那様」と呼ぶのも…全てはディーナが怒りを隠しているときだった。



「今更、もう遅いのよ」


見知らぬ女を招き入れて、自分の種をバラまくような男なんてこっちから願い下げである。ディーナは何も知らずに喜ぶベルの声を聞きながら、静かに指に嵌まった結婚指輪を窓から外に投げ捨てるのだった。





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