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今日もまた朝からいくつかの商談を終え、お客様を送り出して一息つくディーナ。そんなディーナの姿をそわそわと見つめているのが侍女たちであり、ディーナは溜め息を付いた。



「今日も自室に?」

「はい、昨晩から殆どお2人で…」


夫のジュールがベルと名乗る女を屋敷に連れ帰ってから、2人はべったりと共に過ごす時間が多かった。淡い桃色の髪と瞳を持ち、ドレスから溢れんばかりの大きな胸元を晒す彼女。


雨の夜から体調を崩して不安になっているという彼女に縋られれば、ジュールも見捨てて置けないのだろう。ディーナがドレスを差し出したのは初日だけであり、翌日にはもうジュールが呼び寄せたドレスショップが屋敷にやって来ており、ベルにはいくつものドレスを買い与えていた。



更にはベルの体調が悪いというのにも関わらず、ジュールが屋敷のシェフに命じて作らせた食事はどれも庶民では食べられないような高級食材ばかりを指定している。夜遅い時間にデザートを作らせたり、高級酒を運ばせたりと色々と面倒なことばかりを起こしているようで、ディーナはその都度、使用人たちから寄せられる報告に頭を悩ませていた。


一度、ディーナが妻としての気遣いだと王宮でも有名な医師を手配したのだが、ベルが見知らぬ人は嫌だと追い返したということも話しに聞いている。結局、体調を崩しているふりをして侯爵家の甘い汁を啜っている女と、そんな女にあっさりと骨抜きにされている馬鹿な夫がこの頭痛の原因だった。




「…まぁ、これはきっと私にも責任はあるわ」


きっとジュールに何にも責任を与えず、10年以上も楽な政略結婚を続けてきたのが間違いだったのだろう。たっぷり甘い蜜を与えられて、侯爵家の当主としての権力と立場を持ってしまっているジュール。そんな魅力的なジュールを狙って、ずる賢い女が引き寄せられてしまったのだ。


心配そうにする侍女たちの姿を見ながら、「大丈夫よ」なんて答えを返すディーナ。いつかこうなることもあるかもしれないと考えていた方針はある。ただ…そうすれば、きっと引き返せないことになると分かっていた。


(政略結婚でも…愛していないわけではなかったのよね)



長男を出産する際に一時、生死の境を彷徨ったディーナに彼が珍しく動揺したのを覚えている。泣いたのをバレたくなかったようで吐いた彼の下手な嘘だとか、彼が握ってくれた手が小さく震えていたりだとか…。子供たちが父親として彼の名前を呼んで、肩車をねだった日々も…きっと政略結婚の割にはうまくやっている夫婦だったはずだ。



「…もうっ!こんなところに痕付けたら侯爵夫人に見えちゃうじゃない!」

「いいんだ、君が俺のものだって証明したいんだ。こんな天使に出会えることはもう二度とないよ」


ただ、そんな思い出も、ジュールの部屋から漏れ聞こえてきた会話で全てがどうだって良くなる。



どれくらいだろうか、ディーナはただ静かに部屋から漏れ聞こえてくる彼らの会話を聞きながら、その場に立ち尽くしていた。何度か心配に思った侍女たちがディーナを気遣うことがあるものの、ディーナはただ静かに、扉の前で自分の気持ちを綺麗に整理してしまうのだった。






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