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王都でも有名なイエリア侯爵家。先代のギャンブル好きから没落寸前となり、一家心中まで起こしたこの侯爵家が立ち直ったのは唯一の生き残りである現当主もジュールの類まれな手腕のお陰だった。彼の興したワイン事業が軌道に乗った際には、幼い頃からずっと想い続けてきた伯爵令嬢との恋も無事実ったらしい。
それが、イエリア侯爵家について広がる噂だった。
しかし、実際にイエリア侯爵家を支えるのは妻であるディーナであり、当主であるジュールは経営に関してはまったくの使い物にならない人物だった。
侯爵家の領地の経営からワイン事業までの全てをディーナが取り仕切っているものの、この世界では女性が表立って動くことを良く思わない貴族たちも多いため、ディーナは顔だけが良い夫のジュールを風よけに置いている。
光の反射で金色にも見える蜂蜜色の艶やかな髪色と宝石の様な蒼の瞳。男性にしては珍しい白い肌は黙っているだけで彫刻にも思える美しさであり、ディーナが掛けるように命じた眼鏡のおかげもあって秀才さを作り出すことが出来ている。
ディーナはそんな夫のジュールと結婚をし、もう10年ほどが経っていた。
この結婚はディーナの経営の才能を埋もれさせたくなかった両親が、都合の良い駒にもなるジュールを見つけてきて、周囲には嘘をバラまきながらも成立させた政略結婚である。
嘘はいつしか尾ひれを付けて広がっていき、ジュールとディーナのロマンチックな愛として広がっていった。
ただ、ディーナにとってはジュールに顔役を任せながらも、ずっと進めたいと思っていたワイン事業が何の障害もなく進められることに満足している。貴族の妻としてジュールとの間にはきちんと侯爵家の跡継ぎとなる2人の息子を生んでおり、勤勉で健やかに育っていく息子たちとの日々に癒されながらも、次々と新たな販路を開拓して、ワイン事業の方もを大きくしていたディーナ。
一方のジュールの方も楽してお金を手にすることができ、周囲からちやほやされるこの10年の政略結婚生活には満足しているようで…あの日までは本当にすべてが上手くいっているはずだった。
そうあの日までは。
今までジュールが引き起こしてきた父親譲りのギャンブルの負債だって、パーティで馬鹿げた挑発に乗って起こしたトラブルだって、全てジュールの尻拭いをしてきたのはディーナである。
この10年の結婚生活の中で最悪だった侯爵家を立て直し、ワイン事業を興して領地を守ったジュールという肩書きを壊すことなく、ディーナはそんな夫に一途に愛される妻としての立場を守ってきた。
しかし、そんな関係が一夜にして大きく揺らぐことになったのだった。




