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「雨で濡れていたから可哀想だったんだ。湯浴みをさせて、君の服を貸してあげなさい。あぁ、2人分の温かいワインも一緒に用意してくれ」
その日、夫であるジュールは偶然街中で出会ったという女性を連れ帰ってきた。泥で濡れてぼろぼろな姿からも分かる、彼女の美しい容姿。鈴の様な軽やかな声でジュールに縋る彼女と、そんな彼女に向けるジュールの熱い視線。
「あぁ、もう終わりね」
気付けばディーナの口から、小さくそんな声が漏れていた。
「どうかしたか?」
「いいえ、すぐに侍女たちに準備させますわ」
ディーナは屋敷の女主人として、笑顔で夫と夫が連れ帰ってきた女性を受け入れることにする。
侍女に命令して湯浴みの準備をさせ、ジュールの望む通りに温かなワインとドレスの用意をするディーナ。「はは」と空笑いが漏れたのは、きっとこの嫌がらせが面白かったからだ。
「奥様、このドレスは…」
「いいのよ、持って行ってちょうだい」
「ですが…」
渋る侍女を追い出した後、ディーナは自室に飾ってあった小さな額縁に入った絵を手に取る。ついさっき侍女に手渡したクリアブルーのドレスを身に着け、ジュールと共に幸せそうに笑っている自分の姿。これは画家の友人が結婚祝いにと贈ってくれた絵である。
しかし、彼はあのドレスがこの絵のものだなんて気付くことはないだろう。自分たちはただの政略結婚であり、彼が私を愛していることはないのだから。
ディーナはそうして手に取った絵を自室の暖炉に投げ捨て、灰になっていくのを静かに見つめているのだった。




