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「…こっちに!」
赤子が落ちることがないようぎゅっと抱きしめながら駆けているディーナに、そんな声がかかる。
木々に隠れるようにして馬車を隠し、ディーナを待っていた人物。そんな彼が馬車の中へとディーナを引き入れた。
「っ…はぁ、げほ…」
彼に促されるままに馬車に乗り込んだディーナ。こんな夜に似つかわしくない真っ白な神父の装いの人物…トラヴィスはディーナに水を差しだし、息があがるディーナの背をゆっくりと撫でていく。
そうして、馬車はゆっくりと進みだしていた。
目的の場所は決まっており全ては計画通りである。
「…あの、今更こんなことを言ってもおかしく聞こえるかもしれませんが、本当に私と逃げる選択をしても大丈夫ですか?もしかしたら、平和に暮らせないほどに酷い立場に追いやられるかもしれません」
息が落ち着いた頃、ディーナはそうしてトラヴィスに向き合う。すると彼もまた、真剣な表情でディーナを見つめ返してきた。
「えぇ、そうなっても構わない覚悟をしてここに来ています。…本当はずっと後悔していたんです。既婚者であるはずのディーナに想いを伝えて、困らせてしまったこと。そうして、自分が凄く浅はかな人間だと理解できたんです。あなたは様々なことで頭を悩ませているのに、自分はただ欲望を押し付けただけだったと」
ゆっくりと馬車が目的地へと進んでいく中、ディーナはそんなトラヴィスの本心を聞くことになる。彼は自分の指をぎゅっと強く握りこむようにして言葉を続けた。
「私にとっては、どうにか謝らせて欲しいと思っていた頃にハワードさんから連絡をもらって、これはあの日のことを取り返せるチャンスを神から与えてもらえたのだと感じました。どうか、力にならせてください。それがきっと過ちを犯した私のすべきことだと思うんです」
ディーナはそう話すトラヴィスの姿を見ながら、彼とのことを思い出す。
ジュールが出て行って本当に辛いとき、側にいて話を聞いてくれたのはいつも彼だった。
トラヴィスがいてくれたからこそ、ディーナは間違った道を進むことなく子供たちと向き合うことが出来たと感じている。そうじゃなければ、あの頃の自分は子供たちを残して、自分の命を捨ててもおかしくない心境だった。
告白だって本当はこんな風に謝ってほしいものじゃない。彼からの好意は本当に嬉しく思えるし、彼に愛される女性は幸せだろうと思う。
ただ、今はそんなことを告げれば余計に困らせてしまう気がして、ディーナは「ありがとうございます」と感謝を述べるだけにした。
自分が今していることに大きな罪悪感を感じていたディーナにとって、今のトラヴィスの存在は凄く安心できるものだった。ここまで手筈を整えてくれたハワード。そして、逃亡の手助けをしてくれるトラヴィス。
きっと、自分がすべきことを失敗すれば彼らの裁きを受けることになるだろうと分かって、ディーナはより今回の計画が失敗できないと感じる。
「…すべてが終わったらまた友人として親しくさせてください。また美味しいお菓子とお茶をご馳走させてほしいんです」
そんな中で、彼が伝えてきたのは本当に訪れるかは分からない未来の話だった。それでもディーナにとって、心を落ち着かせるものに変わる。
いつのまにかディーナの胸の中にいる赤子は眠っており、小さな息遣いにディーナもゆっくり眠気に誘われていく。
ついさっきの薬の成分もあるのだろう。ディーナも少しだけ目を瞑ることにした。




